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貴女をお守りします。ずっと、傍で……
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それは邂逅。
その人物は自らを凌駕する。その凌駕する人物を乗り越える事が出来るのか。



これは、ハヤテが歩んだもう一つの『IF』の物語。








 巨大な学園である白皇学院。その伝統は凄まじい程の年月によって作り上げられたものであり、明治以前には既にこの学院は存在していたのでは無いか、と文献には書いてある。無論、文献と言っても、白皇学院の理事長室に存在している学院歴史書なのであるが……その歴史書事体も、全てを語ってはいない。何故この学院が建てられ、誰が経てたのかすら書かれていないのである。
 尚、前回、この学院は練馬に存在していると記述されていたが……実際はその隣の杉並区である。この杉並区全てを多い尽くすような――
「ええッ! 此処で謝っちゃうんですか!? 普通もっと別の……あのサンデーで云うと右側の空きスペースとかにこう……指のマークの矢印で……」
 ハヤテは何を言っているのか解らないが、兎に角、言って置かねばならないと思ったのであろう。つい、口が動いた。
 ――今は、その様な状況では無いと云うのに。
 現在、ハヤテの目の前を取り囲むのは、黒いスーツを着、サングラスを付けた様々な男である。……SPとは、様々な資産家の家に存在している所謂ガードマンであり、不法侵入者を排除、そして時にはボディガードにもなる特殊な訓練を受けた精鋭達である。
 確かに、予想はしていた。前回、ヒナギクと共に白皇学院に入った際、不法侵入者と間違えられたのは、まだ記憶に新しい。そのやり直しである、只、今日は隣にヒナギクが居らず、全く弁解の余地も無く、処理されようとしていると云う事だけである。
 しかし、この場でそのまま引き返せば、ヒナギクにこの手に握られた弁当を渡す事は出来ない。この弁当を、このSP達に渡したとしても、無事に渡される可能性は皆無だ。異物として処理されるであろう。
 ……さて、そうなるとやるべき事は限られて来る。
 一つ、諦めて戻る。
 二つ――強行突破。
 三つ、土下座。
 この三つの選択欄が現在ハヤテにはある。一番確実な方法としては一番。そして次に確率があるのが三番。二番は、やっては恐らくただではすまないであろう。
 ――しかし、結局突破方法は、これしか無いのである。
 刹那、ハヤテの脚が動いた。同時に、SP一同の脚が動いたのも同一であった。

 ――ハヤテの脚の速度は相当なものである。動かす速度もそうであるが、その体系、そして身の軽さ。全てを総合的に見ても、明らかに喧嘩、戦闘に向いている体ではない。
 だが、身体はどうか……。体は確かに戦闘には向かない体かも知れない。だがその体を動かす身体と呼ばれる、所謂精神的なモノはアスリートのそれである。そう、その日々鍛えている筋肉を、身体が思う様に動かす事が出来るのである。
 SPの動きは確かに速い。だが問題が存在しているのであるとすれば、それは人数の多さである。人口密度が密集していると云う事は、それだけで個人一人一人の動きは制限される。それを狙うのである。
 ハヤテの駆け抜ける体はその為だけに今は特化する。他の機能などシャットダウンする。今はただ、その隙間を通り抜ける為だけに神経を使う――
 軌道修正……、――、直進。
 瞬間、SP全員の目が、サングラス越しに見開かれた。……その動きは、決して捕まえられないものでは無い。今まで様々な侵入者を排除してきた。中には、有名高校のスプリンターと呼ばれる人間も居た。その速度は今でも彼らは忘れないであろう。――そう、それに比べればハヤテの速度など、遅い。止まって見える、と云うには言い過ぎであるが、強ち間違いでは無い表現である。
 しかし、そんな彼らであるが、ハヤテには圧倒的に、そのスプリンターとは違うと云うモノがあった。それを感じていたのである。刹那の内に感じた彼らは確かにプロであろう。ハヤテの体と身体――それらは全て一体化してこそ人の本当の力を発揮できる。俗に云う運動神経とは、どれ程体を上手く使う術を知っているかである。
 それがあった。今のハヤテには、ただ“走る”と云う事柄に関してのみ特化したモノなのである。それが喩え一般人であろうとも、筋肉の収縮、そしてそれを跳ね返すバネの様な脚――構造を全て理解して、それを無意識に動かす。
 轟、と音を立てて風を切り裂く。SPが遥か後ろに見える。……これで、ハヤテは白皇学院に侵入したと思われた。

「――おや、不法侵入者とは……中々に今日は面白い日だな……」

 足をグリップにして、脚の動きを止める。目の前に存在している、コートを着て、少しウェーブ掛かった髪、そしてつけているピアスと健康的な肌の色は、見ている人間に“美”のイメージを与える。
「……坊ちゃんを探している途中で、面白い人間と出会えたよ」
 威圧感――その美青年には威圧感を感じる。爽やかな感覚を体中に纏っておきながら、その奥に存在しているのは獣のそれである。そんな人物が、何故か目の前に存在している。そして、何故か立ち塞がっている。……通さん、といわんばかりに、殺気を放っている。
「どれ、一体何処の執事か、若しくは本当に不法侵入者か……試してみるかな?」
 コートを翻して、青年は構えた。構えたと言っても、それは格闘術のそれではない。体中の神経を尖らせ、体中に力を平等に、むら無く流している様な感覚である。
“この人……出来る!”
 ――後ろからはSPがいずれ追いつく。ならば、一刻も早くこの人間を退かして……
「モノローグで考えるのは良いが……隙だらけだよ?」
「――え?」
 それは本当に刹那の事であった。先程となんら変わらぬ状態のままで、青年はハヤテの懐にもぐりこんでいた。その早業――遮二無二横に動く。青年の拳は空を切る。
「じゃ――!」
 その一撃を逃した青年は更に、その長い脚でハヤテの体を襲う。避けられる速度ではない、ハヤテは目を見開き、その一撃を横腹に直撃した。
 ごふ、と、妙な音を立てて、ハヤテの躯体は跳んだ。無論、実際に宙を跳んだわけではなく、落下の間にある事柄である。
 このまま転べば決着が着く。ハヤテは一つ、手を地面に先ず置き、二に、側転。軟体なその体だからこそ咄嗟に出来た。普通なら、その無理な体勢で成功したとしても、腕を捻る事になるであろう。――体制は立て直した、改めて青年と面と向かう。
 一方の青年は、ほぅ、と感心の溜息を漏らしていた。今の一撃を、慌てる事無く体制を立て直し、且つ、一定の距離を取る為のモノに変貌させるとは……この少年、執事としては未熟、だが、戦闘を行うマシンとしては恐らく一流であろう。一体どの様な訓練を受けたかどうかは謎であるが。
 さて次の一手――と考えたが、どうやらタイムリミットの様である。青年はコートを再び翻して、背中を向けて歩きだした。その光景を眉を潜めながら眺めていたハヤテであるが、その周りに再びSPが囲んでいる事に気付く。そう、時間は稼がれたのである。
「し、しまった……」
 そのままハヤテは腕をつかまれ、連行される。

          ■■■

 ……桂ヒナギクは空腹の中、昼休みを過ごしていた。まさか、弁当を忘れるとは思っても見なかったのである。自分は常に何でも完璧にやって来た、そしてそれは別段誇る事でもなければ、当然の事だと思っていたのである。
 彼女は人間である。完璧超人などではない、失敗もする、忘れる事もある。しかし、その失敗が出る時が、まさか部活の途中にある昼休みの、弁当の時間に来るとは思っていなかったのである。しかし、ハヤテが持ってくるとは考え辛い。喩え、持って来たとしても、SP達に不審者として扱われるであろう――と来た所で、何か感じた。
「――まさか……」
 この時のヒナギクの勘はかなり冴えていたと云う訳である。立ち上がり、部室を後にする。
「桂さん? どこへ行くんですか?」
 出る途中、康太郎と出くわす。
「ううん、ちょっと。……あ、そうだ、野々原さん」
 そう言うと、康太郎の後ろに控えていた楓が何か? と笑顔のまま答えた。
「私が練習が始まっても来なかったら、練習のコーチお願いします」
「――? 了解ですが……何かあるのですか?」
「ううん、ちょっと用事。ごめんね」

 ……歩いて行くヒナギクの背中を楓は眺め続けていた。あの生徒会長が練習の途中で抜けるとは珍しい。それ程の事があったと云うのか……
 だがしかし、今は考える所ではない。
「坊ちゃん」
「どうした? 野々原」
「どうした……? ではありません。
 ――此処でオマエが指揮を執らなくて如何するんだッ! ゴラァアアアアッ!」
「わ、解ったーっ!」
 康太郎は急いで道場の奥に存在している部屋へと走って行った。その奥に道具が存在しているのである、無論、ヒナギクが毎日の様につけているメニューも其処に存在しているのである。
「ったく……おっと、少々熱くなってしまいましたね――」
 歪んだ顔を元に戻し、楓はヒナギクが置いて行った竹刀を拾い上げ、肩に掛ける。
 ……しかし、本当にヒナギクは何故居なくなったのか……楓にはそれが不思議でならなかった。後ろを振り向けば、余り宜しくない指導の仕方をしている自らの主が存在している。この場を離れれば、如何し様も無いであろう。此処は、仕方が無いがヒナギクの言葉に従うことにする。
「坊ちゃん、そんな話の仕方では部員の人間にわからんだろうがァッッ! んな事も判らんか、阿呆ッ!」


 白皇学院は無駄に広い。此処まで広くする必要性を余りヒナギクは感じていなかった。何故此処まで広くするのか、全く理解が出来ない。不便なだけである、特に体力の無い金持ちの令嬢等々の為の学校、とは言い切れない構造ではある。
 ……校舎の目の前まで来て、ヒナギクは溜息を一つ吐く。此処まで来るのに、約一〇分ほど、しかもヒナギクの知っている近道を利用して、である。近道でこれなのである、正式なルートを通ったらどれ程掛かるか解ったものではない。
 さて、不法侵入者には二つのタイプがある。そのまま追い出される人間と、強硬手段に出て、学校の人間から聴取を受けるタイプである。無論、大体の人間は追い出されて終わりなのであるが、世の中は不思議なものであり、凄まじい実力を誇る人間が居るモノである。そんなSPで対処しきれない強者には、学院が保持している執事組織が全力を持って排除する事になる。
 今日は午前で終了する日である為に、その執事組織は居ない筈である。
 ヒナギクは今回は後者の可能性に掛ける事にした。捕まり、確実に聴取されている。そう感じるのである。
「……あれ?」
 校舎に入ろうとした時に、一人の人間の姿を見る事になる。
「大河内君?」
「あ、生徒会長。ねぇ、ヒムロを知らない?」
「……冴木さん?」
 はて、ヒナギクは記憶を辿る。此処に来るまでのルート上には居なかった筈であるが……つまり、この大河内タイガは、迷子、と云う事は無いだろう、自分の学校である。置いていかれたか、逸れたか、である。
「坊ちゃん」
 噂をすれば……ヒナギクが後ろを向くと、其処には美青年と云う言葉が似合う、青年がコートに手を入れながら現れた。
「ヒムロ!」
「探しましたよ。全く、坊ちゃんと逸れたら、僕の給料が減ってしまう」
「……」
 心配すべき点はそこなのか、と云う考えは今は放っておく事にする。この冴木氷室と云う人物はその様な人柄なのである。それが素なのか、冗談なのかは良く解らないが、少なくとも、ヒナギクは前者だと思っている。
「ああ、生徒会長。先程不法侵入者が入っていましたからね、気をつけてくださいね……では坊ちゃん、参りましょうか」
 ――成る程、あのコートの裾の土はそう云う事か。どうやら氷室がその不法侵入者と戦闘を行なったらしい。そしてつまり……聴取中、と云う訳である。あの氷室がその人物を取り押さえたのだから、充分危険人物として処理できる。良かった、とヒナギクは胸を撫で下ろす。いや、良かったと云う表現は間違いであるが……兎に角、今は彼を救う事にしよう。


「……」
 顎を擦りながら、氷室はヒナギクの先程の微妙な表情の変化の事を考えていた。まるで、不法侵入者に心当たりがあるかの様に。
“――ふ、考えすぎか……”
 それは絶対にありえないと思った。
 だがもしそれが本当だと云うのであれば、あの少年とは、再び合い見えることになるであろう。


               to be continued......
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