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貴女をお守りします。ずっと、傍で……
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心の中の気持ちは相手には見えないモノ。口に出さねば解らない。

心理は何時変わるか、時にそれは思わぬ方向に動く時がある。


これは、ハヤテが歩んだもう一つの『IF』の物語。









 紅茶を一口飲みながら、ヒナギクは目の前で微笑したまま止まっている二人を眺めていた。先程から全く動く気配は無い、だが何かを互いに考えていると云う事は理解出来た。ハヤテに関しては答えをどう返して良いのか解からず、歩はその答えを先延ばしにしたいのだろう、答えを訊いてもそれが絶望的なら嫌になる、だがそれがYesであればこれからの人生が明るく変わる……その様な微妙な距離を望んでいるのである。
 如何し様もない、再び紅茶のカップに口を付ける。答えを出せと言った、応えろと言った。だが紡ぎだす答えまで自分がコントロールする事は無い。黙ってその後の展開を見守るしか存在しない。
 しかし、何時まで経っても、話題は答えに行く事がない。徐々にヒナギクのストレスが募っていく。
「……ええと、綾崎君は今はちゃんと生活出来ているのかな?」
「え、あ、はい、ええと一応生活出来ています……お金はありませんけど。先に言った通り、一応居候になっているお宅がありますので……」
 ……先程からこの様な感覚の会話しか行なわれていない。
「ええと――綾崎君の両親は如何したのかな?」
「さぁ……今頃何処かでしぶとく生きているんじゃないんですかねー」
 笑顔で凄まじい事を述べているハヤテもハヤテである、随分とこの状況下で思考回路がおかしくなっているのであろう。一体どれ程この掛け合いが続くのか……いずれにせよ、歩の話題のストックが消えたら、この場は沈黙に変わるであろう。今でさえも、間が空いて言葉が出るのである、それはもう遠くは無い場面である。
 苦しい策である、歩は立ち上がると、紅茶の御代わりをいれるついでに、菓子まで取りに行った。逃げに出た一手である。
 歩が台所で作業をする間、ハヤテは心の整理をする時間を得た。溜息を一つ、歩に聞こえない様に吐き、心を整理しようと一旦立ち上がり、再び椅子に座り、体制を立て直す。
“……さて、どうしよう……そろそろ話のネタもないし……。やっぱりこれは……”
 横を見ると、何時もと同じ様に紅茶を口に運び、凛とした目をしているヒナギクが座って居た。
 一方の、見ていた方のヒナギクは、助けを求める様なハヤテの顔に、一つ溜息を吐いた。この男は一体何をやっているのか。この際、駄目なら駄目と言い、付き合うのであれば付き合うと、その辺りをはっきりとすれば良いものの……
 だが同時にそれが難しい事も解かっていた。出来れば苦労しない……今までこの様な経験が無かった為に余り考える事はなかったが、自分がもし、ハヤテか歩の立場に立たされたのであれば、ハヤテの様に他人に助けを求める様な顔をしたのかも知れない。
 しかし今回はヒナギクの立場は違う。……目を瞑って、横に顔を向ける。それを見たハヤテは、自分で何とかしろ、と云うヒナギクの意図を悟り、テーブルの方向に視線を戻す。
 ――正直な話、何時までもこの様な事を続けている訳には行かない。あれ程心理戦と心の中で呟いたが、結局はこの様な事柄は早めに応える必要があるのである。心理戦にしては駄目である。
 兎に角、相手を傷つけぬ様に、答えを出す方法を頭の中で作り出す。……矢張り、真面目に答えるとなると……
「そ、そういえば西沢さん、風邪をひいて居るそうですけど……大丈夫なんですか……」
 そういえば、と思い出した事柄である。
「え……う、うん、熱はもう下がったんだけど、一応まだ安静にしてようと思って……」
「えーと、そうなると何時までもお邪魔している訳には行かないので……。
 ――単刀直入に、もう、話をつけましょう……」
「ふぇ!?」
 つまり、ハヤテはこの間の答えを言うと云うのである。それは待ちわびた事なのであるが、いざ、その答えによると……
 だが避けては通れぬ道である。他人に対して恋心を抱くと云う事は、常に拒否と云う言葉と隣り合わせである。
 ……再びテーブルにつく二人。歩の淹れた紅茶はそのままカップの中にリーフと共に入ったままである。このままでは、渋い紅茶が出来上がるであろう。だがその様な事、些細な事である、重要なのは、今目の前にある事なのである。
 暫らくの間沈黙が続いたが、ハヤテが口を開いた事により、会話は始まった。
「……僕は……西沢さん、確かに西沢さんの告白は嬉しかったです。僕みたいな人間が、誰かに好きになってもらえるなんて、ありえませんから……」
 そこまで声を出して、先ず、ひと息を付く。此処まで言葉を出すのに、これ程緊張するものとは思わなかった。――脳裏に過ぎるのは、歩の悲しげな顔だけである。
「でも――僕にはその告白を受ける事は出来ません」
 ――蒼白になった。目の前が白く変色した。世界がまるで、音もなく崩れたかの様に、歩の目の前は白く変色したのである。
「勿論、西沢さんが嫌いと云う訳ではありません。……只、僕には貴女と付き合う資格がないんです」
 その最後の、資格、と云う言葉に歩が顔を上げる。
「……余りこれ以上は……只僕には貴女と付き合う資格がない。それに今僕は、女の子と付き合っている余裕がないんです。だから……」

 ――それで終わった。無論、これでも言葉を選んだ方である。今ハヤテが持てる最高の言葉を選んだつもりである。
 だが、それでも残酷な言葉に変わりは無い。
 歩の家を出る前に、ハヤテは一つ頭を下げて、先を歩いた。後から出て来たヒナギクは、一足早く行ってしまったハヤテに対して少し怒りを覚えたが、彼は答えを出した、今は何も言わないで置こうと思った。靴を履いて、同じく歩にご馳走様、と言い、家を後にしようとする――
「あの……桂さん」
 と、呼び止められた。余りに予想外の言葉に、ヒナギクは目を点にしてしまった。
「……若しかして、綾崎君が居候している家って……桂さんの家なんじゃないんですか……」
 その言葉で、更にヒナギクの目は点になった。――女の勘と云うものなのだろうか、尚ヒナギクは女の勘と云うものをこの数年間使った事もなければ感じた事もない。
 しかし、これは拙い。上手く言いくるめるハヤテがこの場には居らず、今は自らだけなのである。上手く言えるかどうか……
「えーと……」
 思いついた事柄を言おうとその刹那、歩がそれを制した。
「……綾崎君って隠し事するの苦手なんだよ。直ぐに顔の端からでちゃう」
 つまり、言い訳をしても無駄だと言う事である。
 暫し呆然としていた。この少女は、ハヤテの事に関して本当に良く見ている、そして理解をしている。これ程理想的なパートナーは居ないであろう、ハヤテは一体何故拒否をしたのかが理解出来なくなってくる。
「……えと、私はどうしたら良いのか、な?」
 何故呼び止められたのかが理解出来ない。その言葉だけを言うためだけに呼び止めたと云うのか。その辺り、理解する事が出来なかった。
「……綾崎君……ううん、ハヤテ君をお願いします」
「はい?」
「私、絶対にハヤテ君を振り向かせるから。それまで、ハヤテ君には元気で居てもらいたいんです……勝手かも知れないですけど……」
 ああ、そうか――ヒナギクは目を瞑る。この西沢歩と云う人物は……
 目を開いて、ヒナギクは歩に向かって一歩前に出ると、顔を見る。
「……ヒナギクで良いわよ。変わりに、私も貴女の事歩って呼ぶから。
 ハヤテ君の事、解ったわ」
 歩が頭を上げる。
「……えーと……ヒナさん?」
「まぁそれでも良いわ。ヨロシクね、歩」
 この少女は無垢だ、そして想いが一途である。――この少女、同じ少女として、応戦してあげる事にする。ヒナギクはそう決意した。

 ハヤテは遅かった、とは言わなかった。無言のまま只先を進んで行く。元行く道を辿って、戻っていく。途中で学校の目の前を通り、そしてそのまま一直線に、桂家に辿り着いた。時刻は夕刻五時過ぎ、家に入れば夕食の香りが鼻腔を擽る。
 ハヤテは家に着く頃には元の調子を取り戻しており、笑顔でリビングに入って行った。そこで夕食を作っている母親の隣に歩いて行き、手伝いをしている。
 そんな姿を、ヒナギクはテーブルに着きながら眺める。
 ――応援しよう、そして、願おう――彼女の恋と、彼の幸せを……



                    to be continued......
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