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貴女をお守りします。ずっと、傍で……
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少年の新たな戦い。

執事と呼ばれる超人は、主の為にある。全ては主の為に戦う強さと、少年の強さ。

果たして、どちらが強いか――?


これはハヤテが歩んだもう一つの『IF』の物語。







 決闘――それは、戦いで物事を決める際に使われる争いごと。人は常にその歴史の中で、様々な事柄を決闘で選んで来た。無論それは今現在の社会でも同じ事である。自らの理想、理念を貫く為に人は戦う種族なのである。
 そして今、この場に居る一人の少年も、自らの思いの為に戦うのである。そこに、それ以外の考えは存在していない。只一つの為に、只一つの為に……
 そうしてその戦いを受けるのは、ハヤテである。目の前に居る少年、東宮康太郎に申し込まれた決闘は、三本勝負の剣道対決である。……と、言っても、正確なルールは余り知らないハヤテである、実際はルールなしの対決、と言っても過言では無い。
 ヒナギクから竹刀を渡されたハヤテは、グリップを確認しつつ、竹刀を二、三回振ってみる。向こう側では、余裕の表情をしている康太郎が腕を組んでハヤテの準備を待っている。
 ……しかし、未だに何故この様な事柄になったのかが解らない。自分が何かしたであろうか。自分の行いを振り返ってみるが、あの東宮康太郎と云う人物に対しての非は、ハヤテ自身が考察するに、全く存在していなかった。確かに、全くの部外者がこの剣道部の部室に居るのは問題であったが、それも生徒会長のヒナギクの許可を貰っての事である。
 腕鳴らしを終わらせ、康太郎との戦いの場に行く。と、その途中でヒナギクがハヤテの肩を叩く。
「……東宮君は偶に入ってくる人に対してこうやって決闘申し込むのよ」
「あ、そうなんですか?」
「ええ。だからまぁ、その、あんまり人が入ってこないと言うかなんと言うか……」
「はぁ……」
「ま、でも何時も負けてるんだけどね」
「……そうですか……」
 成る程、噛ませ犬とは良く言うが……いや、少し失礼に当たる言葉だ、ハヤテは反省しつつ、兎に角全力で行こうと考えた。そうすれば恐らく三回とも言わずに一回で終わるような気がしたからである。もう一回横に乾いた音を立てながら竹刀を振るい、康太郎の前に立った。
 当の康太郎も床に置いてあった竹刀を取り上げ、ハヤテの目の前に立った。
「逃げずに僕の目の前に来た事を褒めてやろう! だが勝つのは僕だ!」
 竹刀を目の前に突きつけながら叫ぶその姿は、自信満々であり、ハヤテは一つ溜息をつく。――兎に角、早く終わらせよう。
 ヒナギクが真中に立ち、始める為の合図としての腕を上げる。これが下がった時に、戦いが始まるのである。ハヤテは気長に、康太郎は冷や汗を流しながら待つ事にした。
 ――そうして、ヒナギクの腕が下がった。
 刹那に、康太郎が駆け抜けた。……ハヤテとの距離は役三メートル。五歩もあれば事足りる距離である。下がらずに、ひたすら前進して相手から一本取る、それが康太郎の作戦である。
 思惑通り、五歩の後に康太郎はハヤテの目の前に辿り着いた。このままの直撃を狙う。腕を後ろに下げて、片方の手で、勢いをつけて竹刀を振り翳す。――それはまるで螺子の如く、自らの体を一本の螺子に喩えて、体を曲げて一閃を放つ。
 が、その考えは、ハヤテにとっては単調過ぎた。振り翳される竹刀の軌道を読みきり、体を一ひねりするだけで避けきる。
「――な」
 ……刹那に、右足に力を入れて一回転、すぐさまに康太郎の懐を取る。これでもう充分である。脚で康太郎のバランスを崩し、後ろに一歩下がった所を、竹刀で康太郎の持つ竹刀を斬り上げる――
 それはまさに一瞬の出来事。一秒も立たない早業の内に、康太郎の竹刀は剣道場の宙を舞い、落ちた。静寂の空間には、その竹刀が落ちる乾いた音だけが響いた。そしてハヤテの目の前には唖然とした顔で地面に膝を着いている康太郎の姿――先ずは一本。
 その出来事が予想以上だったのか、康太郎は直ぐに立ち上がり、二、三歩下がる。落ちた竹刀を取り上げ、勝てない、と悟る。
 先のその速さは尋常では無い。普通に生きていて、その様な能力を保有するものなのか……いや、中学時代の時に剣道をやっていた? 違う、剣道をやっていたならルールも解る、そして今の様に脚を使って攻撃をしてくる事も無い。ルール無しの戦いだからこそ出来る一撃だ、今のは。
 ならば喧嘩に明け暮れていたと云う礼はどうだ。……違う、その様な身のこなしではない、それに喧嘩はもう少し手段を選ばない作法の筈である。もし仮にそうだとしても、ならばヒナギクとはどの様な経緯で知り合ったと云うのだ。
 結局、康太郎を満足させる様な答えは出てこなかった。只解ったのは、目の前に居る人物はどうあっても自分には勝てないと云う事実だけが、解った。
 ……康太郎は竹刀を左手に持ちなおし、右手の指を鳴らした。それを不思議に見ていたハヤテであったが、その突然現れた人物に、ハヤテは身震いした。――その人物は、突然何もない空間から現れたのである。
「……正直侮っていたよ、綾崎。これからお前の相手は、この、コンバットバトラー野々原楓が相手をするッ!」

 ――目の前に現れた人物を眺める。微笑を常に絶やさない、長身の優男である。白いコートに身を包み、背中には竹刀を背負っている。寒気を覚える様な人物では無い、矢張り、ハヤテの思い違いであったのだろうか……
 コンバットバトラー、野々原楓。バトラーと云う事は、この男は執事と云う訳である。流石は金持ちの人間である、自らを守る執事を雇っている訳である。
 楓は竹刀を背中より取り出し、ハヤテの前に立った。
「どうも、野々原楓です。東宮康太郎坊ちゃんの執事をやっております。以後、顔見知りを……」
 丁寧な言葉使いと挨拶に、ハヤテははい、と言って礼をした。先程まであった殺気が消えている。
 そんなハヤテの内心は知らず、先程ハヤテに一撃の元粉砕された康太郎は、楓の横に走って行き、息を荒げながら、ハヤテを指差す。
「野々原! アイツだ! アイツをやってくれ! コイツ、僕のことをぶったんだ! 親父にもぶたれた事なかったのに!」
 かしこまりました、と答える楓。成る程、この男を今度は相手にする様である。どれ程の腕を誇っているか解らないが、自らの主を守ると云う事は、それなりの腕を持っていると云う訳である。……正直、一般人である自らが勝てるかどうか、ハヤテは疑問であった。
 しかし、何時まで経っても楓はかかって来る気配がない。いや、先ず戦いに必要な殺気が全く無いのである。
「……ですが……坊ちゃん……」
「ん? なんだ、野々原?」
 笑顔のままの楓が康太郎の方を向くと豹変する。――突然、眉間に皺を寄せ、目が開き、そして腕が上に上がる。その豹変振りは、先程まで微笑を浮かべている、優男の楓からは全く考えられない豹変であった。
 その豹変に康太郎が血相を変える。背中を向けて逃げ出そうとする康太郎の服の襟を、楓がその長い腕で掴む。
「――言いましたよね? ……たった一度の失敗でへこたれるな、と。そして、三回勝負なのにたった一度負けて全てを諦めるなどと――」
 軽々と、康太郎を片手で放り投げ――
「言ってんだろ! ゴラァ嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼ッ!」
 長身の大半を賄っているであろう、長い脚で康太郎を蹴り飛ばした。蹴り飛ばされた本人は、肺が圧迫され妙な音を履きつつ、そのまま部室の壁に激突した。そして圧迫されていた肺が潰れて、妙な音を出した。咳き込む康太郎に、一瞬で目の前まで躍り出た楓が、竹刀を向ける。
 そんな楓に、泣き出しそうな顔を見せながら、康太郎は悲鳴を上げる。
「……えーと……」
 どういう事か、と云う問いをする意味で、ハヤテはヒナギクの方向を見ると、目を瞑りながらヒナギクが答えた。
「教育ですって……」
「――ちょっと、これは教育とは言わないんじゃ。虐待ですよね?」
「そうね。だから止めるの――!」
 ハヤテの横を通り抜けたヒナギクが、二回目の竹刀を振り翳した楓の目の前に出、その竹刀を自らの竹刀で受け止めた。乾、と乾いた音が響き、竹刀同士がぶつかる。
 刹那に楓が後ろに下がり、竹刀を下ろす。ヒナギクには手を出さないつもりであろう、何時もの笑顔に戻り、言葉を発する。
「……桂さん、これは私達の問題ですし、これが方針ですので、申し訳ありませんが部外者は黙って見て頂けるとありがたいのですが」
 その言葉にヒナギクが眉間に皺を寄せて、竹刀を目の前に振り翳す。
「そういう訳には行かないわ。目の前で苦しんでいる人間を……ましてウチの学校の生徒が苦しんでいるんだから、それを放って置く訳には行かないわ」
 そうですか……と言って楓は完全に殺気を解く。康太郎に対する罰はしない様である。
「ま、これで充分でしょう。
 ――それでは、綾崎ハヤテ君。私と一つ、手合わせなどをお願いしても……宜しいですかな?」
 突然振られたハヤテは、ふいを突かれたものの、元々そうなる運命である、ハヤテはその申し込みに対して肯く。そして、竹刀を構えなおして、剣道場の真中に行く。
 楓も移動し、これで戦う準備は整った。先程康太郎を倒した為に、このまま楓を一回倒せば、此方側の勝利である。――ルールは変わらず自由対決。どの様な方法も可能である。
「いざ――」
「――勝負!」

          ■■■

 真先に仕掛けたのはハヤテである。……この男に小細工は通用しない。戦いは力と力、そして自らの技量、全てが試される。下手に様子を見て、相手に攻撃の隙を与える訳には行かない。
 竹刀を持って、そのまま脚で蹴りを数発放つ。それを楓は竹刀で全て受けきる。それを眺めながらも、一瞬だけ蹴りのタイミングを遅め、速い一撃を間から放つ。威力は低いが、その分スピードはある。今は徐々に一撃を加えていく作戦に徹するしか無い。此方側も、隙は見せられないのである。
 その蹴りの対象である楓は、それを一歩後ろに下がることで避けきった。……間合いを読まれている、ハヤテは内心舌打ちをする。
 一撃を避けた楓は、次の瞬間にハヤテの前へと現れ、そのまま背中を見せる――体制を低くし、そのまま脚を回す、回し蹴り。横より高速で現れた蹴りを、持っていた竹刀で受ける為に咄嗟に構える。が、その一撃、速いだけではなく一撃も重い。竹刀はそのままに、一気に脚はハヤテの顔面へと直撃する。
 凄まじい勢いで蹴られたハヤテは、先の康太郎の様に吹っ飛ばされる。しかし、先とは違い、飛ばされた上空で竹刀を床に突き当て、勢いを殺し、重点をそれに注ぐ。勢いを殺された為に、そのまま脚が地面に着き、直ぐに顔を目の前に動かす。
 ――そこに、一瞬で楓が現れた。
 速過ぎる。対応が追い着くか解らないが、ハヤテは腕を交差させて攻撃を待ち構える。
 幸いな事に、楓は蹴り技を中心に戦いを行なう為に、攻撃前のラグが大きかった。――蹴りは、リーチが長い為に当て易いと云う観点ではメリットがあるが、掌の様に攻撃前のラグが少ない訳ではない、寧ろ長いのである。
 直ぐに腕をそのまま後ろに下がった。蹴りの間合いは長い、そのまま体制を低くする。その上を楓の蹴りが通り抜ける。踵落としにつながれると厄介である、直ぐに横へと跳び移り、竹刀を構える。
「中々やりますね……」
 楓はその笑顔を絶やさずに、腕を振るう。
 余裕だ……楓には余裕がある、まだ本気ではない。本気を出さなくてもこの強さ、矢張りこの男は出来る。戦いなれている。
「しかし、そろっと部活動の皆さんが集ってくる頃合です。……終わらせていただきます」
 刹那、楓が消えた。先程より更に速い――全く呼び動作無しに蹴りが跳んで来、咄嗟の反射神経で竹刀で受け止めた。後ろに仰け反ったハヤテの隙を見逃さず、そのまま、楓が初めて腕を使った。
 ――力を込めて、片方の腕でハヤテを掴み、体制を崩し、もう片方の腕の竹刀を上空に投げ――ハヤテの頭を掴む。
「“超爆裂、炎掌(セーフティ・ハンマー)”――ッ!」
 その腕から爆発が起こり、ハヤテを今度こそ、真の意味で跳ばした。そのまま落ちてくる竹刀を取り上げ、更に一撃――
「“超爆裂、炎斬(セーフティ・シャッター)”――ッ!!」
 衝撃波が壁に激突したハヤテを遅い、今度こそ、止めを刺した。

          ■■■

 ――何時の日か、同じ様に戦いに敗れて倒れている時があった。数十年前、幼少時、その時まだ少年は全てを知らなかった。只誰かを助けたくて、その少女の笑顔が見たい為に、守りたい一心で強くなった。
 その特訓の中で、少女にやられたとき、この様に倒れていた。地面に背中を預けて、空を仰いでいた。……指一本動かず、全く叶わなかった……

「――ぁ」
 目覚めた。……硬い地面の上で、ハヤテは倒れていた。
「お目覚めですか? 綾崎君」
 視線を横に移すと、そこには顔に絆創膏を貼っている楓が座っていた。起き上がり、前を見ると、既に剣道部の部活が始まっており、ヒナギクが、康太郎が、竹刀を握って打ち合っていた。
 頭を掻きながら、自分の体中に絆創膏が貼ってある事に気付く。この嫌な感覚は、痣がある証拠である。しかし、先の常人離れした一撃を受けて、自らは良く生きていたな、と我の事ながら感心する。
「……すみません、加減を知らないもので、少し強すぎたようです」
「いえいえ、僕のほうこそ……そんなに強くないんで……」
「そうでしょうか? 少し磨けば、光る様な気がしますよ?」
 互いに苦笑を浮かべながら、肯いた。


「どう、ハヤテ君?」
「ええ、とっても楽しかったです。……少し痛いですけど、やっぱり学校で、良いですよね……」
 遥か遠くを見る様に、ハヤテは空を見る。
「……また今度来させてあげるわよ。友達も出来たみたいだしね」
 片方は友達と言えるべきかどうかは解らないが、少なくとも、年上の友人は出来た様な気がした。



                to be continued......

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無題
ああ、やっぱりこうなったか...
でも東宮君は野々原にボコられるのが仕事だから仕方ないよねw
あと野々原の必殺技が出ましたね。
この小説はシリアスっぽいので出さないかと思ったのですが。
ABBA右右右左 2009/08/17(Mon)17:18:31 編集
返信
今回もどうもです。

やっぱり東宮くんはこうでないといけませんからね! このへんはしっかり書きました。
必殺技は出しますよ、やっぱり見せ場ですしね。シリアスっぽいのは確かにそうなんですけど、これからは少しずつネタ的なものを放り込んで行きたいと思いますので。

それでは、また。

絶対自由 2009/08/18(Tue)23:54:21 編集
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