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貴女をお守りします。ずっと、傍で……
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思い出した事柄。
それは決着をつけなければならないのである。
有耶無耶にすれば、それは一生後悔する。


これはハヤテが歩んだもう一つの『IF』の物語。





 




 ――時刻は昼の三時を回ろうとしている頃合である。暖房の効いた部屋でヒナギクは雑誌に目を通している。矢張り三時にはちょっとした菓子を口に運びつつ、紅茶を飲む。それに更にケーキなどがあれば言う事は全く無い。
 それが特に部活が終わり、やるべき事も全て終わらせた後の事なら尚の事である。――通常、一般人は冬休み、又は夏休みに出される宿題を毎日を掛けて、最後の一日前辺りになるまでやっているものである。が、ヒナギクの場合は、夏休み、冬休みの宿題を最初の一日目に終わらせ、後の日々は自学の日とするのである。周りから見れば勉強熱心か、若しくは一部の人間には只の阿呆にしか見えないかも知れない。
 しかし、この事も常に自分が強くある為の話。白皇学院生徒会長としての威厳、そして成すべき事の為の手段なのである。
 加えて、ヒナギクは剣道部に所属しており、その成績は素晴らしいものである。まさに文武両道、神が産み落とした黄金の卵なのである。
 そんなヒナギクが優雅にティータイムを楽しんでいる中、ふと庭の方を眺めると、ヒナギクの竹刀を借りて体を鍛える事に専念している少年が居た。ハヤテである。
 つい数時間前の話である。剣道部最弱――ヒナギクは申し訳ないと思いつつも、そう思っていた――である東宮康太郎と決闘を行い、勝てぬと悟った康太郎が自らの執事、野々原楓を出してきた。その楓と戦闘を行い、敗れてしまったハヤテは、何かスイッチでも入ったのか、こうして庭で体を鍛えているのである。
 ……確かに、ヒナギクと三千院ナギを助けた実力は本物である。あの学内でも異名高い『コンバット・バトラー野々原楓』に本気を出させた数少ない人間の一人となったのだから。
 ヒナギクは溜息を一つ吐いて、雑誌をテーブルの上に置くと、庭へと通じる窓を開けて、ハヤテの様子を眺める。
「――、――、――、」
 時折肩で息をしながらも、その動きは変わらない。通常、息があがった人間は、自らのパフォーマンスが低下し、体、脚、全ての箇所に対しての重みを感じる。そうなれば最後、まともに運動をしている人間でも翌日には疲れが残るものである。
 しかしどう云う事か、疲れている事は解るが、全くハヤテのパフォーマンスが低下しないのである。寧ろ、その腕と竹刀は次第に切れを増して行く。この短期間で、しかも独学の筈であるが……
「へぇ」
 そう感歎の溜息を吐いた事で、漸くハヤテが気付いたのか、振るう腕を休めて、窓際で自らを見ているヒナギクの方向を見る。
「随分気合が入っているじゃない?」
「はい! 次に野々原さんと戦う時には違う僕を見せなくてはなりませんので、気は抜けませんよ!」
 そう言い、ハヤテは再び視線を目の前に戻し、竹刀を振り始める。まさに青春を部活等に捧げた人間の井出達である。
「……でもそこまで熱心なら、いっその事、学校に復学すれば良いのに……」
 ヒナギクのその言葉に、ハヤテの腕が止まった。――復学。その文字が頭を過ぎる。今一番したい事柄であり、同時に今一番出来ない事柄でもある。
 その様子を眺めたヒナギクは、何かいけない事を口にしてしまったと思い、口に手を当て、弁解に出る。兎に角、ハヤテの目の前で学校と云う言葉、若しくは復学と云う言葉を口にしては行けない様である。
 ヒナギクの弁解に対して、微笑しながら制する。そして竹刀を袋に詰めて、部屋に入る。
「僕も、ヒナギクさんの家に居候になっていますし、それにバイトも始めました。これなら確かに手引きをして、援助をしてもらえば何とか学校に通うことが出来るかもしれません。
 でも、一度退学にされている学校に行くのは……どうも忍びなくて……」
 成る程、それで躊躇っていたのか。確かに、一度退学になった学校に再び受験をして入る事などかなり気まずい状況であろう。加えて、今の時点で学校の試験を受けると云う事は、完全に来期からの通学になる。つまりハヤテは一年留年したような感覚で日々を過ごさなければならないのである。
 流石にそれはヒナギクでも考える。だが、勉学には変えられないとも同時に思うのである。
 別の方法を考えなければならない。……ハヤテが留年せずに、編入と云う形で学校に入る方法を……

 夕食を終えて、其々が自分の部屋に戻る。ハヤテも、ベランダから外に出て、自らの小屋まで行く事になる。
「……学校、かぁ……」
 確かに、あの時はアルバイトばかりであり、全く友人と遊びに出たり、ふざけあったりする様な経験は無かった。それが今日今しがたの事柄により、矢張り学校で友人と遊び、そして共に学ぶことの楽しさを再確認したのである。学校への気持ちは募るばかりである。
 ……が、しかし、おかしな事にハヤテの頭では何かが引っ掛かっていた。学校と云う言葉を聞いた時点で、ハヤテの頭の中では、前の学校に何か重要な忘れ物をしたような気がしたのである。それが何なのか、ハヤテはベッドで横になりながら考える。
 とても、大切な、事柄……時間を、カレンダーを引き戻す。時計を逆さまに持って行き――

『ハヤテ君が……好きです――』

 思い出した。
 年が明ける前に一度自らの高校に行った時の出来事を、ハヤテは思い出したのである。
 そう――彼女の名前は西沢歩。自らのクラスメイトであった少女である。小さなツインテールをしており、何時も自らに対する態度が周りとは違った少女。そして、この間自らに告白をした人物。
 重大な事柄を忘れていた。ハヤテは思い出した達成感と、如何すべきか、と云う嫌な感覚が脳裏に残る。しかし、余りにも答えを先延ばしにしすぎるのも問題である。……だが、答えを如何すべきか。明らかな拒絶は確実に駄目である、と言ってOKと言える程ではない。
 頭を抱えて考える。ベッドの上を転がりながら、如何すべきかを考える。
「何してるの?」
 ……と、した所でドアのところで立っているヒナギクに気付いた。
「ヒ、ヒナギクさんっ!? 何時からそこに!?」
「えーとそうね、相当前から。ノックしても出てこないし、でも何か呻き声が聴こえたから居るんだろうと思って入ったら……で? 何やっているの?」
 ベッドの上で頭を抱えて横になっているハヤテは、どうみても滑稽な姿に見えた。赤面していく感覚を感じて、ハヤテは体を起こしてベッドに座った。
「いえ、少し考え事を……」
 真剣に悩む様子、頭を抱えてまで考える悩み事。ヒナギクは顎に手を当てて、考える。一方、ハヤテの方はヒナギクにこの事を相談しようか、それともやめようかを考えていたのである。
「……あの……」
 結局、今この状況を打破するには、男である自らよりも、女性であるヒナギクの方が良いだろうと思い、悩んでいた事柄を話す事にした。
 先ず、その日の事、そしてその人の事、そして最後にその少女に告白をされた事を、包み隠さず全て話した。と、ヒナギクはえ? と言って一歩下がった。そして額に手を当てて、それから頭を振ってハヤテと向き合った。
「ハヤテ君はどうなの? その子の事」
 え、と思ってハヤテは下を向く。真面目な顔をしてそう問うてくれた異性は全く居なかったために、ハヤテは戸惑う。どの様な顔をして良いか解らず、兎に角何時も通り微笑しながら答える事にした。
「僕は……嬉しいと思っています。異性の――女の子に告白されるなんて初めて……の事ですし……」
 ――ヒナギクは眉を顰めた。今一瞬、何かためらいの様なモノが見えた。明らかに誤魔化した感覚があったが、ハヤテは何時も通りの微笑を浮かべている。気のせいか、と思い、ヒナギクはそのままハヤテの言葉を聞く。
「でも僕には付き合えません、付き合う資格がないんです……。だから、ヒナギクさんに、余り嫌な思いをさせない様な断り方を……」
 その言葉で、何かが切れた。
 乾いた音が響いて、ハヤテが後ろに下がった。あるのは頬にある痛み。そして目の前を見れば頬を赤くして手を平をスイングしたまま腕が停滞している。
「……バカ。嫌われない様に断る方法なんてある訳ないでしょ!」
「え……え?」
「ちょっとハヤテ君、そこに座りなさいッ!」


          ×          ×


 ……朝。
 妙な気分でハヤテは道端を歩いていた。時刻は今八時。朝食を摂り、遣るべき事をやって直ぐに家を出たのである。この間義母より買って貰った黒いコートを着ながら、白い息を吐く。と白い息は空に舞ってやがて消えた。
 ハヤテはこれより、再びあの高校へと足を運ぶ事になった。あの後相当時間の説教を受けたハヤテは、今日の内に決着をつける、全てうやむやにしないと云う事をヒナギクに言われたのである。剣幕に負けたハヤテは、結局今日行く事になったのである。
 ――が、どういう訳か、後ろからはヒナギクが着いて来ているのである。監視のつもりであろうか……
「……あのー、ヒナギクさん……今日部活は……」
「午後からよ」
 即答するヒナギクの顔は笑っていた。……その笑顔が、今のハヤテにとっては凄まじく怖く、恐ろしい。一歩間違えれば確実に殺される、と云う感覚を覚えたのである。今直ぐにでも後ろからナイフで刺されそうな気がするのである。
「――圭一くんも……同じ気持ちだったのかな……」
 ふと、ハヤテは妙な知識を口にして、重い足を前に出した。

 練馬の中心に存在しているのが白皇学院だとすれば、外れに存在している場所は潮見高校である。現在、潮見高校は冬休みの補修の時期であり、それに西沢歩が出ていることも知っていた。つまりこの場で待っていればいずれは歩に会う事が出来るのである。
 時刻は八時半、そして補修が始まるのが九時から一二時まで。つまり早い人間ならそろそろこの場に現れる筈である。
 校門の目の前でハヤテとヒナギクは立っており、希に人が二人を眺めては、何か首を傾げながら校内へと入っていく。……矢張り、ハヤテは兎も角ヒナギクは目立つのであろうか? 確かに、ヒナギクは美少女である。この凛とした感覚を回り合わせたこの容姿に、男女構わず人気があると云うのは、昨日楓より聞いた話である。
 しかし、何時まで立っても歩が現れる気配がない。
 ……と、そこに見覚えのある人物が現れた。
「おぅ、ハヤテ! 久しぶりだな!」
 そこにはクラスメイトの人間が立っていた。
「あ、どうも、久しぶりです」
「聞いたぞ、学校辞めさせられたんだってな、気の毒だなー。って、ん? なぁ、誰だよ、その子」
 指差す先にはヒナギクが立っていた。矢張りそうなったか、とハヤテは考える。本当の事を言う訳にはいかない為に、兎に角適当に誤魔化す事にする。
「えーと、新しく始めたバイトの同僚さんです。桂ヒナギクさんって言います」
 そう簡単に説明すると、ヒナギクもハヤテの心中を察したのか、ええ、と言って挨拶を交わす。
「――で、何をしに来た訳よ?」
「えっと、西沢さんに用事がありまして……」
 西沢と云う名前を出した時に、目の前の友人の顔が緩んだ。
「おお、お前達付き合い始めたのか?」
「違います!」
「なんだ詰まらん。でも残念だな、歩なら来ないぜ」
 その言葉にハヤテは目を見開く。
「なんでも風邪をひいたんだと。全く、こんな日に限って風邪ひくんだもんな、歩も運が悪い」
 成る程、風邪をひいて居ないと云う訳か。ハヤテはこの様な状況で安堵して良いのか解らないが、兎に角何か、心の中では安心していた。決着をつけようと考えていても、人の感情が関わっているなら、人はその関係を壊さない為に有耶無耶にしておきたいものである。
 仕方が無い、と呟き、ハヤテは友人に礼を述べて、踵を返す。家に帰って体を鍛えなければならないのである。今日こそ、楓との戦いで一首を報いるために。
 ――だが、突然襟をつかまれてハヤテは止まってしまう。無論、その襟を掴んだのはヒナギクである。ゆっくりと首をヒナギクの方向に向けると、そこには笑顔を浮かべたままのヒナギクが立っていた。
 ハヤテが何も言えない中、ヒナギクがハヤテの友人の方を向き、手を差し出し――
「すみません、どうしてもその子に今日会わなきゃならないんで、住所、教えてくださいますか?」
 その様な事を問うた。
「……ヒナギク、さん?」
「――ハヤテ君、安堵なんてしてないわよね?」
「……はい」
 こうしてハヤテとヒナギクは、歩の住むマンションへと行く事になった。



                   to be continued......

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