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貴女をお守りします。ずっと、傍で……
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ボカロ小説再掲載。

あと二話で再掲載が終わります。

てか一気に今日は消化します。……ので長いかもしれません。




 
 
『――だから、オーバーテクノロジーですって……』
「それは本当なんだな」
『ええ。既に目星はついています』
「よし……捕獲しろ。期限は一年やろう」
『――了解。我素晴らしき、「冥王会」の為に――』
 
          ◆
 
 夜中の出来事――それはギャルゲーだとフラグが立ってとあるシーンに流れ込むと云うお約束の時……
 そんな事にはなりたくは無いし、オレはそんな出会って一週間も経っていない少女とのソレは駄目なワケで、そして何にしろリアルでそれは拙い訳でありまして。いやいや、でも男の子としてそれは……
 なんてもんもんと考えていると、ミクが風呂から上がってきた。
「お先に失礼しました」
 は、はい。因みにパジャマは用意していないので、オレのジャージを渡している。ブカブカオプション付きだ。そりゃなー。
 てな訳でも殆ど無く、ミクとオレの身長は差ほど変わらない。まぁオレの身長が回りに比べて低いだけなんだけどな。――オレの身長は一六三だ。笑え、笑えよ。ミクの身長は幾つだ?
「私ですか? ……私は設定では一五八cmです。……でも私は成長するんで……今は一六〇くらいでしょうか」
 ……ちくしょう。どうせオレはちびですよ。風呂、入って来ます。
「はい、ミオ様」
 送り出されてオレは風呂に入る事にする。
 ――――――あー、気持ちいい。因みにこの家はガスが通っていない。安い理由がそれだ。ほぼオール電化で、風呂は沸かせない。変わりにお湯が出る蛇口と云う訳だ。つまり入れたら最後、後は冷める前に入るしか無い。
 オレは温いのが好きだからな。ミクが入った後に、少し温くなった風呂を楽しむわけだ。
 が……やっぱり女の子が入った後の風呂と云う事もあり……なんかなー、意識すると言うか、何と言うか。いやいや、アンドロイドだぞ、機械だぞ。――でもほぼ人間そのままだしな……意識しても仕方ないと云うか……未来の人もそんな事考えているのかな。
 プラス、オレは早い。風呂を上がる。
 ふぅ、さてと、風呂上りのぐいっといっぱいの、牛乳。これ常識ね。
「ミオ様。私はそろそろ休憩いたします。……で、その前に昼に言っていた話と云うのは……」
 ああ、こればっかりは今の内に言っておかないとな。
「あのな、幾らミクがアンドロイドとしても、女の子には変わりない」
「はい」
「でな、オレは男だ」
「はい」
「一緒の布団で寝る訳には行かない」
「……え?」
「コレばっかしは譲れないからな」
「でもお布団は一つしかありませんよ」
「解っている。だからオレは床で寝る」
「――困ります! それではミオ様は休めないじゃないですか! 良いですから、お布団に入ってください」
「だーめ! だーめ! これだけは譲れない!」
「私は気にしませんので……!」
「オレが気にするんだって!」
 ……と此処で静かになる。ミクも色々と考えているんだろうけど、オレは絶対に譲らないぞ。女の子と寝るなんて……いやまぁ嫌と云うわけじゃないけど余り宜しくないし、オレが夜に襲わないと云う絶対の言葉も無いわけだし……
 ――そもそも、アンドロイドを襲うのも拙いだろうし。……そこまで精密とは思っていないけどな。
「てな訳で、ミクはもう寝ること。オレはこれから大学の課題をやらなきゃいけないから」
 OK。これでミクも諦めるだろう。オレはテーブルの上のPCを……って無いし! そうか! PCは修理に出したんだったァ! ……仕方ない、紙でやるか。これが現代技術に依存している青年の末路か……
「あの……」
 と、ミクが声をかけてくる。……まだ寝てなかったのか。
「ミオ様の言いたい事は良く解りましたし、ミオ様が私のことをアンドロイドと割り切れない事も良く解りました。でもそのまま床で寝て風邪でもひかれたら、私は困ります」
「……いや大丈夫だから。この前風邪ひいて寝込んだから多分もう……うん」
「駄目です、その油断がいけないんです。……解りました、ではこうしましょう」
 そう言うとミクは徐にオレの漫画を積み始めた。
「此処からこっちは私の布団で、此処から向こうはミオ様の布団にしましょう。これなら一緒に寝ている事にはなりません。バリケードを張りましたので」
 ……その発想は予想通りだったけど……何もオレの漫画でやること無いだろうに……
 しかし困った。これでは反論のしようがない。確かに、漫画バリケードの選択は間違っていないが、ずっとこのままと云うのは拙い。寝相を悪くして、漫画を踏み潰して折り曲げると云う事になりかねないからな。
 てなると、オレは人間としての理性か、漫画かを選ばなくてはならないと言うのか!? 目の前ではオレの答えを待っているミクの姿がある。この空気……長く続いたらオレの負けだ。理性が折れる前に答えを導き出さないと……
 
1.諦めてミクと一緒に寝てみっくみっくにする。
2.断固拒否。コレばっかりは譲れない。
3.漫画の代わりを用意する。
4.それよりもミクと愛し合う。ふひひ。
 
 ……こんな選択欄しか無い。オレの頭も駄目だこりゃ。簡単な話は3だろう。うん。
「解った……その手で行こう。但し、漫画の代わりを用意するからさ、ちょっと出かけてくる」
「? この時間帯に空いているお店があるんですか?」
 時刻は九時を回った辺りだ。ああ、なんとか大丈夫だろう。一時間あれば。
「てな訳でオレは出掛けて来るから、ミク、留守番頼んだよ」
「はい」
 オレの理性を押さえつける為にオレは再び外へと飛び出す。
 
          ◆
 
 OK冷静になろう。オレはイ●ーヨーカ堂の中で大きな仕切りを買う、うん、此処が一〇時まででよかった。あと二〇分で一〇時だけどな。……オレが入った時は片付けをしている最中で、本当に申し訳ない。でもこのオレを救うと思ってください。
 自らの理性を押さえつけられなくなり、ミクを襲う事に比べたら、一万円なんて安いものだ。……これで欲しかったカードゲームの箱買いが出来なくなったけどね。
 あーもう、これでオレやっていけるのか? 今更ながらに考える。そもそも、何故この様な事になったのか真剣に考えた事が無かった。でも知ったところでミクは追い出せない。事情を知った以上、他人のフリがオレには出来ない。
 ……と歩いている時に、向こう側になんか……妙なモノを見た。
「……なんだありゃ」
 関わり合わない方が良いと思い、オレはその姿を眺めるだけに留めておいた。そいつらはスーツを着てサングラスをかけて、そして一定の速度で歩いている。後ろでは何か巨大なコンテナが運ばれている。……なんかのお祭の準備かな……
 歩き始める。どんな偶然か、その謎の男達は、オレの家の方向と一緒の道を歩いていく。嫌な感じだな。まさかこのままオレが家に着くまでこの男達と一緒……とかな。
 ――ああ、嫌な予想って当たるものだな。
 結局男達とはオレが家に戻るまで一緒になりそうだ。
 ……………………………待て。
 待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待てマテマテマテマテマテマテマテマテマテマテマテマテマテ―――――――ッ!
 あいつ等! オレの! 家に入って――ッ!
「何してんだテメェら!」
 気付けば駆け出していた。圧倒的な数相手にオレが勝てるわけないと言うのに、中に居る少女を……ッ。
 オレの叫びに一斉にその男達が此方を見る。――サングラス越しでもわかる。男達は確実にオレを……
「――がッ!」
 ……駄目だった……
 腹に一撃を受けた。とんでもない一撃だ。鉛球を腹に叩き込まれたかのようなその一撃に、オレは吐きそうになる。
 こいつら……何が目的だ。
「隊長、見つけました」
 部屋の中から出てきた男の一人が、ミクを抱えてそんな事を言っている。――こいつら、目的はミクか……
「や、ろう」
「威勢が良いな。だが若すぎる」
 一人の男がオレの目の前でそんな事を言った。何言ってやがる、コイツ、オレの事を馬鹿にしているのか……。兎に角、その腕放せ、ミクを解放しろ。
「それは出来ない相談だ。少年よ、キミは手に入れた宝物を、見す見す他人に渡すかね?」
 ……いいや。
「そう! 世の中は等価交換で出来ている! だからキミはこの少女よりも価値のあるモノを渡すしか無い! 生憎、キミから取り上げたいものは無いな」
 如何するつもりだ……
「なに、キミが思うような淫らな真似はしない。只、必要なだけだよ。我々、「冥王会」にな」
 ……冥王会――……だと? どこのどいつだかしらネェけど……放せよ。
「解らないな。キミとこの少女、出会ったのはたった数日前のはずだろう? お互いもまだ全然解らない人間が、どうして彼女を助けようとする?」
 ――……その言葉に、オレは答える事が出来なかった。
 
 
          ×          ×
 
 
「そうっすか。了解」
 着信を切った。
「誰からだ?」
「いえ、先輩。知り合いっすよ」
 雄介の言葉に、宏隆は曖昧な言葉で返した。
 
 
          ×          ×
 
 
 目が覚めたら誰も居なかった。……何時も通りだ。
 大学に通った。……何時も通りだ。
 友人と話して笑った。……何時も通りだ。
 秋葉原に向かった。……何時も通りだ。
 そして、家に帰った。誰もいない。……何時も通りだ。
 
 何時も通りだと云うのに……オレの中は何か、おかしい。
 
「……」
 部屋で一人、オレは座っている。脱ぎ散らかされた服、見覚えの無い女の子の服。漫画が山積みになっている布団。
 ……忘れられるわけ無いだろうが。たった数日でも、オレにとっては確かな日々だった。確かな記憶だった。
 ……あ。
「住民票……」
 そこで決心がついた。オレはミクを忘れることなんて出来ない。
 簡単な話だ。あの時オレが答えられなかった答えが今はある。……一日も考えておかないと理解できないなんて、我ながら莫迦な頭だ。
 
 そうだ、オレはミクが好きだったんだ。
 
 数日だけだけど、オレは多分、ミクに一目惚れしていたんだ。あそこまでむきになったのも、全てはミクの為だったんだ。……バカヤロウ。
 ――あいつ等、自分達を「冥王会」って言ってたな……
 修理を終えたPCを開く。検索エンジンで冥王会を入れてみる。――駄目だ、出てこない。そもそも公式な組織じゃないのか……? くそ! こんなときにオレは情報源が存在しない! なんとかしないと……ミクが……ッ!
 と、ポケットに手を入れたところで、何か尖ったものに手が当たった。取り出すと、そこには角ばった四角形の紙が出てきた。
 そうだ……コレだ! それは昨日出会った刑事の名刺だった。
 
「……もしもし」
 
          ◆
 
 その電話が届いたとき、最初は白状したものかと思った。……が、確かに白状した事は白状したが、その話が突飛過ぎて、雄介は最初理解出来なかった。だが、少年の口調は冗談を言っている様に聞こえなかった。
 ……取り敢えず、真偽は兎も角、話をしてみようと雄介は思った。
「良いんですか? 先輩」
 部下の宏隆の言葉に雄介はああ、と答えた。元々その為に名刺を渡したのである。それが冗談だったら厳重注意、違ったら……それはそれである。色々と考える事はあるが、兎に角行動をしない限りは始まらない。
「面倒なら来なくてもいいぞ」
「いいえ、一緒に行きます」
 ……待ち合わせ場所は例の公園にした。
 
          ◆
 
 そこに刑事が現れたとき、オレは全てを話そうと思った。殆どは話した。後は冥王会の話だけだ。それさえ話せば……あとは何とかなる。
「よう、少年。早速だが、話してくれるか? この前の彼女さんがさらわれたってのをよ」
 ――そうしてオレは全てを話した。ある日、落ちてきたミク。そして日々の生活。そしてさらわれた事。最後に……冥王会の事。
 冥王会の事は聞かないな、と刑事は言った。つまり非公開組織。そう、警察も解らない組織と言う事である。
「調べてみる価値はあるか……おい、宏隆、行くぞ」
 ……ん?
「おい如何した、ひろた――か?」
 其処には……何時の間にかこの間の黒いスーツのサングラスの男――ミクを連れて行った男達が立っていた。
「こいつら……」
 刑事さんの目の色が変わった。……やべー展開?
「いやー、やっぱりですよね。先輩が渡した名刺でこうなる事はわかっていましたから」
「……どういうことだ、宏隆」
「簡単な話。最初っから僕はこっち側の人間ってことですよ」
 ……え。
「最初未確認飛行物体の話をしたでしょう? あれ、僕達は既に知っていたんですよね。それが未来から来たアンドロイドって事」
「――なに?」
「で、最初はマジで信じているわけではありませんでしたよ。でも、昨日この少年に会って、隣に座っている子を見た瞬間に、解ったわけです。この子はアンドロイドだってね」
 ……どうやって解ったんだ……こいつら……
「そりゃ企業秘密でっせ。
 兎に角、それで僕は上の命令を受けてそのアンドロイドをさらいに行った訳ですよ。我々、冥王会の為にね」
 あの時から既に狙われてたって訳か……
「ご名答。頭の回る坊主だな」
「お前ら……ミクを返せよ!」
「無理な相談だね。彼女は必要だ。我々の目的の為にね」
 なんだよ、その目的って!
「言う必要は無い」
 じゃきり、と音を立てて向けられた銃。
「……キサマ……」
 刑事の顔が歪む。
「それじゃあ、さよならです」
 ……次はオレか? この刑事の次はオレか……? 死ぬのか? オレはこんな所で死ぬのか?
「ふざけんな」
 こんな所で死ねるか。こんな馬鹿げた事で死ねるか。
 確かに、上から落ちてきたミクのせいでこんな事に巻き込まれた。けど不思議とオレは憎めないんだ。何故ならオレはミクが好きになったからだ。
 なら何をする、遠藤観光! やるべき事はたった一つだ。
「そうだよ!」
 この野郎。オレが死んでもそんな時代遅れの世界征服みたいな野望を抱いている集団に負けるかっての!
「――少年! やめろ!」
「命知らずめ!」
 
 ――ぱぁん。
 
 ――じゃきん。
 
 …………………………………………………………どうやら、オレ、生きてるみたいだな。
「な――」
「――んだと?」
 オレは……引かない。良く解らないけど、オレの手の平には唯一、ミクを助けられるものがあるらしい。
「……剣?」
 オレの目に見えるのは……一振るいの、異形の剣。――うぉ! なんじゃこりゃ! オレはまさか! そうか、ディ●ードか!? リアルプートしたのか!? オレはギガ●マニアックスだったのか!?
 まさかこんな所でカオヘのディ●ードを眺められるとは……うむ。
「なんだ! ははははっ! 正義の味方ごっこか!? はははは!」
 ……。
「今のはまぐれだろ? 玩具で、本物に勝てるわけ無いもんな!」
 ぱぁんと音が再び響いた。
 バカヤロウ! これは玩具じゃねーよ。
 ……本物だ。
 すげー速度の銃弾がオレには見える。まるでク●ックアップした見たいに、オレの視界に移るその銃弾はすげー遅かった。簡単に剣で叩き落せた。
「ふざ――」
 けるな! と言いたかったんだろうな。こっちの方がもう早い!
 
 ――その刑事の部下の首下に、剣を突きつけた。
 
「あ、が……ッ」
 銃が落ちる。後ろで呆然と眺めていた刑事が急いで此方に来、銃を拾う。そしてオレを後ろにやった後に、その部下に銃を突きつけた。
「場所を教えてもらおうか、彼女さんのな」
 後ろでは既に警察がファンファンとサイレンの音を鳴らしていた。
 
 
          ×          ×
 
 
 ――磔にされた少女は様々な機器を取り付けられていた。細部まで調べられて、そのオーバーテクノロジーをチェックされていた。
「クク、これで、コレさえあれば、我々はもう勝ったも同然だ。我々は――」
 少女を眺める男は愉快に笑う。
「戦争にな」
 ……世界地図が映し出される。……そして、その磔にされた少女の中に映る映像は、どれも今の技術を凌駕するものであった。たとえそれが戦闘用のモノでないとしても、その機器は全て兵器に変換可能であった。
 邪魔をする人間は全て今頃始末し終わった筈である。――もう、誰も止める事は出来ない。日本はどの国よりも優れた技術を持って、世界を征服するのである。今まで、輸入なしでは生きていけなかった、アメリカの影に隠れる生活を終えて、日本は冥王会指揮の元、未来技術を使用し、戦争を始めるのである。
 そうすれば、日本は救われる。そう、アメリカの支配と云う枠から抜け出すことが出来るのである。
「どの国が最強か……」
 ……解らせる。それが男の野望である。
 
 だが男はその決意の刹那に、不快な音を聞く事になる。
 
 その耳を響かせるかん高いその音は……警察のサイレン。
「……ヤツめ、しくじったな……」
 自ら刺客として放った男の失敗を呪う。こんな所まで来て、男は負ける事は出来ないのである。
「まぁ良いさ。既にデータのダウンロードは七〇パーセント済んでいる。――現代技術に頼りきっている人間には丁度いいだろう」
 ――男はその異形の剣を握って、歩き始めた。
 
 
          ×          ×
 
 
 この廃工場とも取れる場所に大将が居るって訳か……
「いいか? 本当に此処で待機しているんだな?」
「わかってますって。荒っぽい事は全部警察に任せますよ」
 剣は握ったまま、オレはそう返す。……まぁそうすることなんて全く無いけど、こうでもしないと連れてきてくれなかったからね。良く解らないけど、このディ●ードモドキは敵の攻撃を遅く感じる能力があるみたいだし。……多分これは未来の産物なんだ。それで何故か解らないけど、オレに落ちてきた、って我ながら頭が回る。
 そして、警察の人が盾を持ったまま走って侵入していく。始まったみたいだな。さてと、オレも反対側から侵入しますか……
 ……ぱん、ぱん、ぱん。
 と音を立てて後ろで銃声がする。足を止めて後ろを見ると……妙なヤツがオレと似たような剣を持って警察をなぎ倒して――ッ!
「ってマジかよ!」
 本当に瞬殺。あの黒田とか云う刑事も後ろに下がってきた。
「お前は……」
「……刑事か……」
 あのおっさん、どっかで見たことあるなァ。……んー?
「――衆議院、伊藤順二」
 ……そうか、あの衆議院の……。様々な問題発言で衆議院の座を今まさに奪われようとしているあの伊藤順二……。てかなんでそんなヤツがミクをさらって、オレと似たようなディ●ードモドキを持っているんだ!?
 ――視線がこっちを捉えた。
「ほぅ、あの時の勇気ある少年か」
 その声、嫌な耳に響く重く深い声は……あの時、ミクをさらったときにオレに言葉を放った声と同一であった。
 ……殺される。何か解らないけど、オレはあの男に勝てない。威厳のある、あの政治家みたいな顔――まぁ実際政治家だけど……その顔で見られているオレは……何か嫌な悪寒を……
 じゃきり――オレは剣を構える。――もう迷わないって決めたってのに……早くも逃げ腰とは情け無い。ああ、ミクを助けるまでは……
「少年! 逃げろ! ソイツは……」
 解っているよ、黒田刑事。オレだって逃げたいよ。――でも此処で逃げたら、全部失っちゃうし、多分死ぬだろうし。だったら、カッコつけて死にたいしさ!
「死んだら……新聞にカッコ良く乗せてくださいよッ!」
 怖いさ。脚、震えてる。でも、オレは走る事は出来たんだ。
 
          ■■■
 
 ぎゅいん! と音を立ててオレの剣と伊藤の剣がぶつかった。
 大丈夫だ、確かに見える。多分相手も同じく見えているんだろうけど、こっちも見えているんだから五分だ。相手は五〇過ぎたおっさんだ。体力ならオレの方が上のはずだ! たとえ毎日引きこもっていても! 学校に行っているんだからな!
「――でぃやぁ!」
「む――!」
 水平に斬り付けた。って外れてるし! ああ、くそ! わかっていても、コレはマジで決着が着かない! 踏ん張る足がイテェっつーの! こんなんだったら毎日運動しておくんだった!
 斜めに剣が飛んできた。……見える。
 ぶれた、オレの体がまるで横にぶれたかの様にその剣の一閃を躱す。――よし、やっぱりこっちの有利には変わりない。このまま戦い続ければ、オレが勝てる。
「果たして……」
 ――ッ!? ぐん!
「どうかな?」
 ご――ッ! なんだ!? とっさに横に逃げたのはいいけど……今何か!
「……んな!」
 そこにはまるで裂けたかの様に空間が斬れていた。マジか!? 其処から……ヤツの剣が……現れている。
「次元歪曲って、テメー卑怯だろうが!」
「……そうか、矢張りキミはその剣の力を一〇〇パーセント引き出せていないようだな」
 ……っ! パーツが外れて……びゅん!?
「ってレーザーッ!?」
 バカヤロ! んな出鱈目! ド●グーンシステムかッ! 若しくはフ●ンネル!?
 逃げ惑うオレの目の前に、再び次元歪曲! 避ける。避けてもド●グーンみたいのが追ってくる! 避ける。と、今度はおっさんキタ―――ッ!
 んなろッ!
 剣で受ける。弾いて一歩踏み込みもういっちょ!
「太刀筋は悪くない……だが――」
 避けた!? あの距離で!?
「ツメが甘い!」
 どわッ! っぶねー……咄嗟に剣でガードしたけど、いってー……って、
「アレ……」
 其処には、頬から流れている異物……血ィ!
「若いな……攻撃が単調すぎる」
 うるせ。こちとら全部ゲームのキャラクターみたいに動けるんじゃないんでね。どのゲームの主人公の動きが良いか確かめているところだって。
「威勢だけは本当に良いな。……だが世の中威勢だけでは、やっていけぬのだよ」
 剣が飛ぶ。……受ける。だがおかしいな、さっきみたいに、スローモーションで見えない。速い。本当に剣が飛んで来るように……速過ぎる。
 そんな事を考えていると男の蹴りが飛んで――ッ、ごふぅ! このおっさん、なんだその蹴り! 滅茶苦茶痛ェ! ちょっ、これ肋イッてない?
「って――どわッ!」
 ギン、と音を立てた。幸い、剣に当たった。急いで立ち上がる。後ろに下がって体制を立て直せば……っ。忘れてた。オレは急いで後ろに行くのをやめて、前進後、横へと避ける。案の定、後ろからレーザーが飛んだ。
 野郎、今舌打ちしたぜ。しとめたって思ったんだな。悪かったな、しぶとくて。
「いや、そのまま死んでもらっては困るからね。少しは楽しませてもらいたいものだ」
 はっ! オレはとっととこんな殺し合い見たいなの終わらせて、ミクと一緒に帰りたいね。アンタがミクを返してくれれば叶う話なんだけど。
「断る。まだ彼女には役目が残っているからね」
 だよな。……ったく、オレながら、厄介な女の子を好きになったものだよ。それ以前に、ロボットてか、アンドロイドだけどね。禁断の恋って、こーゆーこと言うんだろうね。
「さて、無駄話も此処までだ。楽しもうと言った瞬間に悪いが……矢張り時間が無い。直ぐに終わらせてもらう」
 うわー、約束破りだ。ま、何時までもこうしているわけにも行かないしな……こっちも、決着つける為にやりますか。
 
 ――シン、と項が――
 
 その前に、やろう、きやがった。レーザービームとかもろもろ、オレに一直線に、躱せないほど速く、オレの元に来た。
 
          ■■■
 
 衝撃波。そう表現して良い程凄まじい程の爆発が起こった。現代では再現しきれないレーザー兵器、更には自立行動兵装を避ける術は無く、目の前で剣を構えていた少年は木っ端微塵に砕け散った。……既に後の形もない。全てが消え去ったのであろう。
 ――国民の平和を守る衆議院。一応、今の少年が死んでしまった事に追悼の意は示す。彼女を奪ってしまってすまないと、内心では思っている。だが、全ては、巻き込まれてしまった自らの運命を呪ってくれとしか言えなかった。
 剣をそのままに、男、伊藤順二は少年だったものに背を向けて、去る。後ろでは、先程の警官が居るが、銃を撃ったところで重力変動装置の作動により、避けられるほどの速度に落ちるであろう。
 完全に安心しきったその刹那――
 
「む――?」
 
 ふと腕を見ると、その腕の先端が消えていた。
「な――」
 に、と叫びたかったのか、その前に痛みと云う刺激が勝った。人間では許容出来ないほどの衝撃と熱さと痛み。叫びたかったが、その叫びすら、喉の辺りで引っ掛かった様に止まり、出てこない。
「そんな、莫迦な」
 ……確実に殺したはずである。
 後ろには、先程木っ端微塵に砕けた筈の少年が立っていた。
「死んだはず、なんてお決まりの台詞なんてやめてくれよ?」
 先程の少年とは打って変わって、まるで大人びている。……一体何があったと言うのか……男は理解に苦しんだ。
「キサマ……」
「正当防衛って言葉知っているよな? その手首が落ちたのは、アンタが打ってくれたレーザー兵器の正当防衛って事でOK?」
 少年はどこまでも馬鹿にしたような口である。それこそ、先程とは別人……
「キサマ――」
「何者? なんてお決まりもやめろよな」
「何者――ッ!」
 あーあ、と言いながら少年は頭を掻いた。
「アンタさ、色々と披露しすぎなんだよ。だからこうやって、俺に全て見せちゃう」
 乾いた音を立てて、剣を振るった。――残像が、実体を持った。それはぶれた分だけ、少年に剣を齎す。まさにアンリミテッドソード。
「粒子学――って云うのかね。世の中は粒子があって初めて成り立っている。人も、モノも、全ては粒子によって作られている」
 その粒子を司る剣こそ、オーバーテクノロジーが生み出した未来の産物。――「オルトソード」。
「つまり、アンタのは偽物だ。七〇パーセントしか完成していない不完全な剣だ」
 ……未来の世界では、既に近代兵器の様なモノは使用しない。核兵器が絶滅した世界では、新たな合成燃料が主流であり、兵器などは存在できない。故に、粒子学の進歩により、インターネット上にある情報に粒子を持たせ、実体を作る――剣などの古代の産物が、未来の兵器なのである。
 ――さぁ、少年の戦いを始めよう。
   大丈夫だ。この少年は多分死なない――
 
 刹那に駆け出した。
「小細工!」
 伊藤順二の言葉が飛んだ。――レーザーも同時に飛んだ。
 ――瞬間、ぶれた。生み出された剣は、少年が一振りするだけで優に七〇を越える。――粒子は電気で動かせる。少年の脳から発せられる電気信号により、粒子は少年が思い描く、理想の剣になる。
 悉く、悉く――その剣達はレーザーを落とし、男の剣を一瞬にして無効化させた。
「――っ」
 剣の一部が破損する。
 そう――偽物が本物に勝つ事は出来る。だがそれは、偽物が本物を超えていた時の話である。偽物すら凌駕出来ない偽者など、只のがらくた、玩具である。
 二〇本の剣が生み出され飛んだ。全ては男を一点として、襲う恐怖。落とされても、只粒子に戻るだけである。証拠は消える。
 それどころか、本物には、完全にどこからでも剣を補充することが出来る。
 電撃が走る。粒子が纏まる。実体を持つ。少年の剣に終わりは無い。
「――ぬ――ぅぅぅぅぅぅぅ」
 押されている。確実に押されている。少年の一撃は微弱な威力。人一人殺せるかどうかも解らぬほど微弱な一撃。だが、それだけに、数が多い。威力は全て数で押す。そして数が多いだけに捌く順二の体も、追いつかない。
 通産一〇五七発目の剣が飛んだ。――次――
「おぉおおおおおおおおおおおおお――――――――ッ!」
 次――次――次――次――次――次――
 終わらない。果てが無い。この少年はどこまでも順二を追い詰める。一撃を返しても、二の太刀が来る。二の太刀を返しても、三の太刀が来る。――いっこうに終りが見えない。レーザーも尽きた、そして、もう男を守る為の剣が……
「――はッ!」
 折れた。
 硝子の様な音を立てて、その剣が折れて実体を失った。
「伊藤――、順二ィィィィ!」
 少年が来る。右手に剣を持って。
 死を覚悟した刹那に――
 
 ――男は、少年の拳を受けた。
 
 


                             to be continued......
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