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貴女をお守りします。ずっと、傍で……
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輪廻があるのは全て決まった運命があるからである。

捻じ曲げた因果は全て、矛盾へと走る。


そんな小説。


これは、ハヤテが別の運命を辿った、一つの結末と確かな答えの『IF』の話。






 雪降る中を、少年は歩いていた。
 時刻は夜の七時を回っている。だと云うのに少年は一人だった。
 アンダーシャツに、ジーパン――そんな薄での服装の上から、安物のコートを着ただけの少年の姿は、第三者から視れば、それは貧相に見える。実際、貧相であるのだから少年にとっては全く思われても問題は無い。幸か不幸か、人から疎まれるのには馴れて居る。
 少年に行くあてなど無い。本当の旅と云う物はノープランなものである。プランがあるモノを旅とは言わない、それは旅行である。
 ふぅ、と溜息を吐くと、白い息が、空に散って消えた。偶々そこにあったベンチに腰を掛ける。
 少年がバイトをクビにされたのはつい、先日の話である。
 一二月の二二日、少年はバイトをクビになった。理由は単純、かつ明確である。少年は年齢を偽ってバイトをしていたのである。発覚した刹那に少年はクビになった。そして、発覚した理由も明確であり、両親が自らの給料欲しさにバイト先の人間に少年の年齢を言ったからであり、その肝心の給料も、今頃パチンコのスロットで消えているであろう。
 少年は、家を出た。……早いうちに気付くべきだったのは知っていたが、それでも、明日は、明日は、と思い、両親の改心に期待していた少年は、もう、そんな両親を許すような心は持っていなかった。
 少年には年の離れた兄が居たと云う。少年が物心付く前には居なかったことから、生まれる前に居なくなったのか、それとも、単に忘れているだけなのか、解りかねないがそんな兄は失踪した。恐らく、少年とは違って、直ぐにあの親に愛想をつかしたのだろう。今どうしているかは知らない。
 今頃両親はどう思っているであろうか? 少年は考える。いや、借金を背負わされたりしなかっただけ、よかったと前向きに考えるべきであろう。それ以外に、あの親への感情は無い。それほどまでに、少年の心は凍てついていた。

 本日は一二月二三日。
 少年は、住宅街を当ても無く歩いていた。
 金は無い。食事も、一週間前にバランス栄養食を口にした以外、食べては居ない。
「……お腹、減ったなぁ」
 少年は空腹を誰に訴えるわけでも無く、そう呟いた。
 被ったフードには雪が溜まって来ている。何時の間にか、雪が降り出してきており、手は氷の様に冷たい。
 ふと、横を見れば幸せな家族たちが笑いあう家がある。
「……明日は、クリスマスイヴか……」
 紛らわすように呟く。
 昔、サンタが言った、「働け!」と。少年はサンタの言葉を信じて、働いてきた。救われる、と、いずれ、いつか、……そう思いながら、毎日働いた。
 しかし、少年を待ち受けていたのは今のような現状であり、死に掛けている様な現状である。
 町から出れば、両親も居ない。そして知り合いも居ない。ゼロの状態から始められると、少年は思っていた。が、しかし、金も無く、電車にも乗れない。バイトをしようにも、履歴書を書くには、住所と電話番号が必要不可欠であり、今の少年には、帰るべき家の住所も無ければ、電話番号などは存在しない。
 八方塞がりとはこのことである。
“本格的に拙いかも知れない……意識が朦朧としてきた……”
 少年は一先ず、道端で倒れるわけにも行かず、近くにあった公園に身を寄せた。
 何も無い公園だった。子供が遊ぶものさえない。雪から体を隠すものは辛うじて、一つ、誰かが作ったであろう、かまくらだけである。
 そうしている間にも、雪は激しさを増してきた。先より数倍の量で降り注ぐ雪は、少年から抵抗力と云うモノをゆっくりと奪っていく。
 気付けば、倒れてしまえば楽だと思った。
「あ……」
 雪は……冷たくは無かった。
 別段冷たいわけでも無く、只、肌と同じ様なぬくもりである。
 意識は遠のく。雪は体に積もっていく。まだ光が見える、完全には埋れていないのだろう。このまま埋れれば、少年が発見されるのは、雪解けシーズンか、若しくは遊んでいた子供たちが見つけるかまでである。
 だが、少年にはもうどうでも良いことである。
 只此処で、少年と云う感覚は消える。全てが無意識になり、思考も何も出来ないであろう。自分が死んだ後の世界のことなどは解らない。死んだ後に、此の世を見ることは恐らく無いであろう。自分がどのように報道されて、どのように思われるのかは解らない。無論、天国と云うモノが本当に存在すると云うのなら、その時は、この世では出来なかった贅沢を、したいと少年は思い、意識を、無に還した。


「――あなた大丈夫?」


 意識を失った少年に声をかける少女が居る。
 少女は諸事情により、学校から家に帰るのが遅くなり、帰り道にこの様な惨状に出会っていた。
 惨劇は何時起こったのか解らない。少女の腕時計は七時半を示していた。
 取り敢えず、落ち着いてはいるが、死に瀕している少年を見て、動揺はしているので、携帯電話で救急車を呼ぶ等の現実的なことを考える余裕が無かった。
 少女は少年の雪を取り敢えず取り除いた。
 少年の容姿と、姿が露になる。
「こんな格好で……」
 顔に手が触れた瞬間、少年が、うっ、と呻いた。
「! 気が付いた!?」
 少女が叫ぶ。
「……ぁ、」
 少年の目が薄らと開いた。
 そして、少年は体を起こした。
「つつつ……あ、すみません」
 少年は震えていた。無理も無い、かなりの薄手である。
「もぉ、こんなところで何をやっているのかしら?」
 少女の問いに、少年は答えて良いのかどうかを考えた。言えば、同情してくれるであろうか? そんな感覚が少年を襲う。だがそんな同情は欲しくも無く、それに言ったところで、信じてもらえるのかが、少年にはわからなかった。
 だが結局は言ってしまうことになる。質問には答えると云う、少年にとっては無意識の感覚になっていた。
「……両親が嫌になって逃げ出してきたんですよ」
 その言葉に、少女は、え? と答えた。
 少年は続ける。
「家の両親はろくでもない人間でしてね、定職にも付かずに毎日パチスロしたり、宝くじ買ってばかり。僕が働いて稼いだお金だって、盗んでそれを博打に使うし……。
 あ、僕何言ってるんでしょうかね」
「ううん! 聞いたの、私だし……」
 兎にも角にも、少年は立ち去ることにした。何時までもこんな所で倒れているわけにも行かない。一度捨てた命だが、助けてもらったのである、もう一度生きようと、少年は思った。
「それじゃあ僕は……お礼も出来ませんけど……」
 少女に礼を述べて、少年は背を向けて去ろうとした。
「待って! ねぇ貴方、お腹空いてるでしょ? ご飯ぐらい、家で食べていかない?」
 少女の手が、少年の手をつかむ。
「え……でも」
「良いのよ。困ったときはお互い様だし、貴方の境遇、解らないことも無いから――」
 そう言って手を引く。
 少年は腹が鳴るのを聞いた。確かに、今此処で少女と別れて独りになれば確実に先と同じ道を歩むであろう。
「……では、お言葉に甘えさせていただきます」

 数分歩いた後に辿り着いた少女の家は、広かった。
「うわ……」
 少年は口を開けたまま、その家を眺める。
「さ、入って」
 表札には、“桂”と描いてあった。
「桂……さん?」
 少年は呟いた。
 玄関の扉を開けようとした少女は、

「そ、私の名前は桂ヒナギクよ」

 そう名乗った。
 暫らく呆然としていた。玄関の光で照らされた少女の姿は、初めて見た姿は綺麗だった。
 そして、相手が名乗ったのだから、自らも名乗るべきと思い、

「僕の名前は、綾崎ハヤテです」

 そう言った。



          to be continued

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