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貴女をお守りします。ずっと、傍で……
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運命の歯車は狂った。

向かうべきは別の運命。少年の一番大切な人は変わる。

もう戻せない運命を、それでも進む。


これはハヤテが歩んだもう一つの『IF』の物語。




 

「綾崎ハヤテ君ね」
 少女、桂ヒナギクと名乗った少女は、ハヤテの名前を言う。それに、ハヤテが肯く。
 案内された家は見た目と比例して大きく、ヒナギクの帰宅を伝える声が響いてから暫しして、奥の方より女性の声が返ってきた。
「ヒナちゃん、お帰りなさい……あら?」
 女性は少し驚いた様な顔をしてハヤテを眺めたが、直ぐに笑いを作り、ハヤテを出迎えた。

「ヒナちゃんが彼氏を連れてくるなんて初めてね」
 ヒナギクの母親は、ヒナギクより事情を聞き、食事をするハヤテを眺めてそう言った。無論、道端で倒れていたなどと云う事情は説明はしていない為に、両親が暫らく海外出張に出ていると云う理由を付けた。
「彼氏って、そんなんじゃないわよ!」
 顔を真赤にしヒナギクは反論する。
「あら、ヒナちゃん可愛い。綾崎君、ヒナちゃんのことお願いねー」
 笑顔を絶やさずに、ヒナギクの母親は食べ終えた食器等を片付けるために台所へと去っていった。
 もう! とヒナギクは呟きながら料理を口に運ぶ。
「……それにしても、良かったんでしょうか?」
 と、ハヤテは気になっていた事をヒナギクに話し始めた。
「何が?」
「嘘のことです。あんな嘘をついて良いんですか?」
「ああ、大丈夫よ。うちのお母さん、どこか抜けているから気付かないわよ」
「そうですか……」
 ハヤテは上げていた腰を下げる。
 両親が海外出張に出たと云う理由を付けたハヤテであったが、ヒナギクとの関係を問われたときに返したのは、現在ヒナギクがバイトをしている喫茶店で仲良くしている人間と云うことを話した。――無論、根が正直なハヤテにとって、嘘はあまりつきたくないものであるのだが……
「いいのよ。少しくらい嘘ついていかないと、アナタ将来苦労するわよ」
 はぁ、とハヤテは返す。
「なぁに? 何のお話?」
 区切りよく、ヒナギクの母親が笑顔で再び戻って来た。
 大した話じゃないわ、と返すヒナギクに、そう? と返すヒナギクの母親。……それは、ハヤテが一番望んだ家族のあり方。
 皆が幸せそうに笑う。どんなに辛くても、どんなに貧乏でも、笑っている。家族が大切で、互いを思いやり、埃に思い、尊敬しあう――そんな理想とも云える家族像をハヤテは望んでいた。

『アナタの両親はクズだ!! ハヤテ、お前は何時かあの両親に不幸にされる! 殺されるも一緒だ!!』

 何時だったか、記憶にまだ鮮明に残っている少女の姿と最後の言葉がある。
 その通りだったのかも知れない。あの時、素直にその“誘い”に応じていれば、ハヤテは今、どのような運命を辿っていたのだろうか。幸せだったのかも知れない。外の世界との関わりを持たない代わりに、永遠の楽園を手に入れられたかも知れない。
 だがもう遅い。全てを投げ出して、否定して、ハヤテは彼女の元を去った。
 今になって、その言葉の意味を思い知らされるとは、皮肉なものである――そうハヤテは思った。

「ねぇ、綾崎君」
 突然話題を振られた。
「綾崎君は何処の学校に通っているの?」
 ヒナギクの母親からの質問。刹那、目の前のヒナギクの顔が変わった。其処までは想定していなかったと云う顔である。
「僕は潮見高校の方に通っています」
 直ぐに答えたハヤテに、ヒナギクの顔が安堵の様子に戻る。
「ああ、あの都立の?」
「まぁ、この辺りは都立しかありませんけど……」
 ハヤテはそう付け足す。
 ……何気なく答えたが、自分はこの先学校に再び行く事が出来るのであろうか。両親もいない、住所もない、そして何より金がない。そんな自らに、再び学校に行く事が出来るのだろうか? 否、その権利があるのか。また間違えるかも知れない、また迷惑をかけるかも知れない。何人の人間が、今までハヤテの都合だけで苦しんできたか、ハヤテは忘れることは無い。
 だが、今は学校に行くと云う事情が怖い。何より怖い。“出来るのであろうか?”ではなく、“出来ない”――行ってはいけない。
 そうする事で、ハヤテは今の時間、学校と云う事情を封印する事が出来た。
「そうだ! ねぇ綾崎君! 今夜は泊まって行かない!?」
「へ?」
 突然のヒナギクの母親の提案に、ハヤテは面食らった。同じく、ヒナギクも飲んでいたコーヒーを吐き出す寸前で止めた。
「今丁度空きの部屋もあるし、それにお父さんも帰ってこないから一人分くらいは何とかなるわよ?」
 目の前で目を輝かせて言うヒナギクの母親に、
「ちょっ! お母さん!?」
「いいじゃない。賑やかになるわよ?」
「……そう云う意味じゃなくて、此処に今年頃の娘が居るんだけど……?」
「大丈夫よ。綾崎君はそんな人じゃないと思うし、仮に襲われたとしても綾崎君になら万事問題ないでしょう?」
「大アリよーーーッ!!!!」
 色々と会話を繰り返す。
 結果から言うと、ヒナギクが折れる形でハヤテの宿泊が決まった。

「本当にすみません……初対面の人に色々と……」
「いいのよ。さっきも言ったけど、困ったときはお互い様だし」
 そう会話をしながらハヤテは一旦桂家の庭に出た。その開いている一部屋と云うモノが庭に存在するらしい。ハヤテはその世の中とは思えないほど広大な敷地を眺めながら溜息を漏らす。
 そしてその小屋はあった。大きさはかなりあるが、二階は無い。宛ら、秘密基地を連想させる一軒家であった。
“……似てる?”
 その小屋はまるで、ハヤテが幼少時を過ごしたあの小さな家の様に見えた。
「中は散らかっているけど、まぁ過ごせない事は無いわよ」
 扉の鍵を開けて、中に入る。と、確かにそこは散らかっていると云う表現が似合っている惨状であった。
 散乱する酒瓶に菓子の袋。暫らく使用されていなかったのか埃がたまっており、電気も一部の電球が切れている。
「……凄いですね」
「お姉ちゃんがこんなに散らかしていくのよ」
「へぇ、桂さんにはお姉さんが居るんですか」
 と、少しヒナギクの表情が変化した。
 何か拙いことでも言ったか如何かを考えるハヤテに、
「ヒナギクと呼びなさい。私、そっちの方が馴れてるの」
 不意打ちだった。
 その笑顔に、ハヤテは心を動かされたのかも知れない。綺麗だと思ったのかも知れない。はい、と答えた裏には、この少女に恋をしたと云う感情もあったのかもしれない。
 それでも、ハヤテは人を、女の子を好きになることは出来ない。
 すれば、ハヤテはまた同じ過ちを繰り返す。
 部屋の事は兎も角、今日一日は凍死しなくても済みそうだ、と思いながら、ハヤテは一人になった。疲労も溜まっていた、そして久しぶりに布団にありつけた。そんな安心感から、ハヤテはそのまま用意された新品同様に綺麗なシーツの上で、意識を閉じた。

     ■■■

 庭から部屋に戻る。一分も掛からないその動作にヒナギクは三分も要していた。
『……両親が嫌になって逃げ出してきたんですよ』
「……」
 その言葉が気になって仕方がない。
 彼とヒナギクの境遇は似ていた。両親に酷い仕打ちを受けて、逃げ出してきたハヤテ。最後の最後に裏切られたヒナギク。これを似ていると云えば嘘だが、遠いものではない。故に似ているととっても問題は無いだろう。
 彼がどのような酷い仕打ちを受けたかは解らない。只最低な両親だとは聞いている。そして、自分の両親はどうなのだろうか? と思うヒナギク。
 ――今の両親に不満がある訳ではない。借金を負い、途方に暮れていた自分達を助けてくれた両親を、ヒナギクは感謝している。そして尊敬もしている。
 本当の両親がどんな人物だったかは知っている。そう、優しかった。
 ふと、再びハヤテが居るであろう、小屋を見た。
「……」
 無言。時間だけが過ぎていく。
「……止めよう」
 そう呟いてヒナギクは漸く家の中へと入った。
 明日、聞いてみよう。同時に思った。

     ■■■

 朝の目覚めは嫌な重みだった。
「……う」
 窓から陽が差し込んでおり、朝を告げている。身体の疲れは取れているが、体が重い。
 ハヤテは起き上がった。重みと云っても、物が体の上に乗っかっているような感覚である。その上のものを退かせば、ハヤテは優に起き上がることが出来た。
「んあー」
 と、その後の異声に、ハヤテは目を点にする。
 ふと、目を下にやると、

 ハヤテの体の上に、一人の女性が眠っていた。



          to be continued


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意見等も遠慮なく。
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