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貴女をお守りします。ずっと、傍で……
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夢も心も希望もなくなった。

少年は空だ。

だが一つだけ、居場所と意義を手に入れられるとしたら――

それは幸せなのであろう。


これはハヤテが歩んだもう一つの『IF』の物語。






 朝。
 朝食の準備はヒナギクが行なった。何時もなら学校の朝練習が有る時間だが本日は別である。冬休み、と云う事もあるが何より一二月二四日と云う言わば年末である。大掃除やらの様々な家庭の事情も重なると云う事もあり、部活は本日は無い。だと云うのに何時もと同じサイクルで目が覚めてしまったヒナギクは取り敢えず起きてこない母親の代わりに偶には朝食は作ろうと云う考えから現在の行動に至っている。
 テーブルに着々と朝食を並べていく。
 桂家の朝食は“和”でも無く“洋”でも無く、気分と作り手の嗜好によって決まる。夕食は大半が“洋”であるが――。兎にも角にも、ヒナギクは本日の朝食を“和”と決定した。
 昨日特売で安かった鰤(ぶり)を使うことにした。朝から凝っているのはハヤテと云う人物が居ることも理由の一つである。
 先ずは鰤の鱗を取る。包丁を使い取っていく。そして包丁を入れ、腸を取る。別段気にすることも無いが取り敢えずである。この腸は焼いて食べることが可能である。切った鰤の水分を拭き、用意した小麦粉を塗し、予め油を引いて熱しておいたフライパンを使い焼く――鰤の照り焼きである――。焼き色が付いた辺りで裏返し、同じ様に焼く。後、余分な油をふき取り、酒を入れ、醤油、みりんで味付けを行なう。取り出した皿にもり、フライパンに残ったタレをかければ完成である。
 タイマーをセットしておいた米も炊きあがり、湯気を上げている。この間、ヒナギクの母親が通販で買った新潟産コシヒカリが朝の日差しに煌く。
 味噌汁は簡易なものにした。味噌を湯に溶かし、調味料を少々、ほうれん草と薩摩芋(さつまいも)を入れた。
 お浸しは菜っ葉を使用した。
 箸を置き、全員分並べたところでヒナギクはエプロンを取った。そろそろ寝坊をしている人間若干二名を起こさなくてはならないからである。
“お母さんはいずれ起きるだろうから……綾崎君の方から起こそう”
 そう思い庭に出た。
「?」
 と、昨日今日の雪で庭は白くなっていたがそれは良い。昨日、ヒナギクがハヤテを案内し、庭に三分間立ち尽くして部屋に戻った頃合にはハヤテとヒナギクがつけてきた足跡は殆ど消えかけていた。東京では珍しくかなりの量の雪が降ったといえる。だと云うのに、地面には足跡が存在していた。無論、自らの足跡が残っていたと考えるのが普通であるが、昨日つけた足跡は見事に消えているのである。だと云うのに一つだけ残っていると云うのは奇怪な話である。
「考えすぎよ」
 そう呟いてヒナギクはハヤテの居る小屋へと赴いた。
 電灯は朝になったことから消えていた。扉も鍵は掛かっていなかった、どうやらハヤテは鍵を掛けずに眠ったようだ。
 ドアノブに手を掛け、扉を開けた。
「綾崎君、朝ごはん出来たわ……よ……」
 目の前にあった光景は、ハヤテの上に女性が乗っている光景であった。

 取り敢えず冷静に対処することが出来なかった。
 早くのうちから冷静に対処していれば、目の前の女性の正体が解ったのであるが、冷静になるのが些か遅すぎた。正体に気付いたのはハヤテを一回叩いた後だった。
「ごめん」
「いえいえ……」
 叩かれた頬をさすりながら、ハヤテは漸く女性の重みから解放された。
「それより、この方は誰なんですかね」
 自らの上で横になっていた女性を眺めてハヤテは言う。豪快な鼾と、手に持った酒瓶、そして鼻の奥を突く煙草独特の芳香の香りを漂わせて女性は寝返りをした。
「あぁ、お姉ちゃんよ」
 そのヒナギクの言葉にハヤテは目を点にした。
「……ええッ! この人がヒナギクさんのお姉さんなんですか!?」
「うん、雪路お姉ちゃん。まぁ、驚くのも無理ないわよね。全然性格似て無いもの」
 確かに、華美なヒナギクとは対照的に、ハヤテの目の前で眠る女性、桂雪路にはそれが見られない。直感的な何かから、性格も恐らくだらしがないのであろう、ハヤテは容易に予想できた。それが年のせいなのか、それとも元々その様な性格なのかは解らないが……
 鼾を掻き続ける雪路は起きる気配がない。
「まぁ、お姉ちゃんは放っておいて、取り敢えず、朝ごはんにしない?」
「は、はぁ……」
 横目で雪路を再び眺めて、ハヤテはヒナギクの後に続いた。

「雪ちゃん来てるの?」
「うん、今小屋で寝てる」
「あらそう。……最近顔を出さなかったから如何したのかと思ったわ」
 笑顔でヒナギクの母親は言った。それは心配していたと云う感情での顔ではない。
「それより綾崎君、ちょっといい?」
 ヒナギクの言葉にハヤテは、はい、と答えて俯いていた顔を上に上げる。
「泊まる場所がないならもう一晩泊めてあげても良いけど……どうする?」
 え、とハヤテは返す。
 ヒナギクの後ろではヒナギクの母親が顔を輝かせて頷いていた。……その後ろにはなにやら様々な衣類が見え隠れしていた。
「……じゃあ、もう一晩だけお願いいたします」
 ハヤテは頭を下げた。
 ヒナギクはふぅ、とひと息吐いて片付けを始める。
 そんな中、ヒナギクの母親は、
「ねぇ、此処にヒナちゃんが着てくれない服があるんだけど……」
「はぁ」
「――着てみてくれない?」
 ハヤテはその服を眺める。
「……女物ですよね……お母様」
「ええ!
 ね! 一回だけ、お願い!」
 ハヤテは考えた。此処でヒナギクの母親の言う事を聞き、この女性モノの服を着れば確実にヒナギクに嫌われるであろう。妙な目で見られるであろう。その様なことに慣れているとは云え、矢張りいいものではない。かと言い、断るのは些か恩知らずと云うモノである。
 迷った末、ハヤテはヒナギクの母親の頼みを了承する事にした。

     ■■■

 ヒナギクは朝食の後片付けを終了させた後、ハヤテと母親がいないことに漸く気付いた。
「……あれ?」
 手を洗い、エプロンを取る。リビングには誰も居らず、只エアコンが出す風の音だけが響いていた。溜息を一つ吐いてヒナギクはソファーに座った。
“……少し、意識しすぎかな……”
 食器を洗っている間、ヒナギクはハヤテのことを考えていた。矢張り、境遇のことについてであった。
 手で顔を覆った。
 と――、
「お義母さんー、朝ゴハンー、って、あれ?」
 先ほどまでベッドで寝ていたヒナギクの実の姉、雪路が現れた。
「もう片付けました!」
 顔を覆っていた手の平を下ろして、ヒナギクは雪路にそう言った。
「ええッ! だって料理三人分あったでしょー!! それくらいは解ってんのよ!!」
 どうやって、とは聞かなかった。目の前に居る人物は一応自らの姉である。姉がどのような性格で、どのようなことをすることぐらいは熟知している。理由を問うだけ無駄である。
「ああん、もぉ! うっさいわね! 兎に角、お姉ちゃんの分は無いの!」
「……むぅ……何時の間にかヒナが反抗期……」
「そうじゃありません! お姉ちゃんがダラダラしすぎなだけ!」
 ヒナギクは腰に手を当ててそう言う。尤もなことに流石の雪路も呻ってしまう。
「まぁ、其処はおいて置いて――朝ゴハン」
「だーかーらー!!」
 と、反論を使用した刹那、

「ねぇ見て見てヒナちゃん! 綾崎君、とっても可愛いのよ!!」
「ちょ、お母様、流石にヒナギクさんには……!」

 リビングの扉が開いて、女装したハヤテとヒナギクの母親が現れた。
 暫しの沈黙が訪れた。
 先ず、ヒナギクの目には、ハヤテの似合いすぎている女装姿が写った。ヒナギクが着ていない女性用のワンピースにミニスカート、髪にはリボンを巻いている。
 雪路の目にも、目の前のハヤテが写っていた。が、ヒナギクと違い、面識がなかった為に、今は何故目の前に見知らぬ人間が居り、自らの母親と仲良くしているかが問題である。
「……だぁぁぁぁぁぁぁああああああああああれだぁあああああああああああああ!!!!」
 雪路の叫びが轟いた。
「ごごごご、ごめんなさぁぁあああいいい!!!!!」
 ハヤテの謝罪が響いた。
「誰よアンタ!!」
 指を指す。
「え、と……綾崎ハヤテです」
「名前は聞いているけど、そうじゃない!! 何故此処にいるかよ!!」
「えーと、拾われたからでしょうか?」
「嘘付け!!」
 即答される。
 詰め寄る雪路、それを、ヒナギクが叩く。
「いったー! 何すんのよヒナ!」
「いいから! 事情は私が説明するからお姉ちゃんはこっちに来る! そしてお母さんは綾崎君を元に戻す!」
 えー、と不満の声をヒナギク母親は言っていたが諦めてハヤテを連れて行った。


「へー、あ、そー」
 煎餅を食べながら雪路はヒナギクの説明に耳を傾けていた。
 ヒナギクは雪路には正直に話した。嘘偽りを混ぜずに――多少不安ではあったが自分と同じことを経験してきた雪路ならば言っても問題ないだろうと云う考えである。
「そういうこと、解った?」
「解ったわよ! 今の話だと、明日には帰るんでしょ? ならいいわよ」
 少し薄情な一言にむ、と来たが事実である。あの少年は明日には此処を出て行く。もう二度と会うこともないであろう。
 それでいいのかどうかは別として――

     ■■■

「へぇ、ヒナギクさんのバイト先ですか……」
「ええ、一応綾崎君はお母さんの前だと私と同じバイト先って設定だし、行っても問題ないわ。それに、店長も店長だし頼めば綾崎君を雇ってくれるかも知れないわよ?」
 ヒナギクはハヤテを連れてバイト先へと赴くことにした。様々なことが聞きたかったこともある、その為には家は騒がしすぎるからである。
“……少し意識し過ぎだって解ってるけど……聞いておかないと、何かすっきりしないのよね”
 そんなことを考えながら、ヒナギクはハヤテを連れてバイト先に訪れた。



                    to be continued

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