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貴女をお守りします。ずっと、傍で……
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終わりを告げた騒動。

そして平穏な日々が今、始まるのか。
脱線した線路は未だ直らず、そのまま走り続ける。


これはハヤテが歩んだもう一つの『IF』の物語。



 ――二〇〇五年……それはつい先日に始まった年である。
 最後の最後に様々な事がありすぎた去年は終わりを告げ、今では気持ちを新たにして過ごす。何時も通りの時間に起き、そして朝の日課をこなし、自らが住んでいる小屋から出る。……外は晴天だ、昨日降っていた雪も止んでおり、下を見ても別段雪が積もっている訳ではない。
 だがこの寒さで小屋の目の前にある道は滑りやすくなっている。足元に注意しながら、少年は歩き出す。その先には、この小屋が置かれている庭の持ち主の家が存在している。
 裏口は何時も鍵が掛かっている。だが少年はこの扉の鍵を受け取っていた為に、ポケットからそれを取り出し、扉を開ける。時刻はまだ早朝の五時だ、誰も起きては居ないであろう。鍵をノブについている穴に入れようとした時――
 玄関寄りの庭より、何やら空気を切り裂くような音が聴こえた。
 不審に思った少年は鍵をポケットにしまい直し、庭の手前の方へと歩を進める。
 すると、そこに長髪で、ジャージを着ている少女が両手で竹刀を構えて、素振りをしていた。一定のリズムで繰り出される振りと息継ぎは、一つ一つが丁寧で、そして熟練のそれであった。見ている少年の心を魅了するその少女は、後ろに居る人間の気配に気付いたのか、素振りを一旦止めて、肩に掛けているタオルで自らの汗を拭うと、少年の方向に振り向く。

「――おはよう、ハヤテ君」
「はい、ヒナギクさん」

 それぞれ挨拶を交わした。

          ■■■

「それにしても、本当にハヤテ君朝早いわねー」
 その数分後にヒナギクの練習が終わり、それまで眺めていたハヤテは揃って正面の玄関から家に入る事になった。
「まぁ、日課ですから。新聞配達のバイトをしていた時はもっと早かったですよ?」
 あの仕事は確かに、と、手に取った新聞を眺めながらヒナギクは肯く。
 リビングに入ると、そこには暗い空間が広がっていた。朝とは言え、一月の早朝は矢張り暗い。ハヤテは壁に着けられている電灯のスイッチを入れる、と、部屋に灯りが灯る。一方のヒナギクは冷蔵庫から飲料水のペットボトルを取り出し、それを開けて飲んでいた。
 時刻は現在五時半。今から朝食を作れば、六時少し過ぎには完成するであろう。義母が現れる頃合には間に合う。それに、今の先まで練習をしていたヒナギクは空腹のはずである、直ぐに作った方がありがたいであろう。
「私はシャワー浴びてくるから、朝食、お願いね」
 はい、と答えて、台所からフライパンを取り出す。朝食は、食べ易いように軽く、且つ一日の活力を作る為に多くあった方が良いのである。
 ――今日の朝食は焼き鮭と、豆腐とわかめの味噌汁、そして漬物と和風にする事にした。洋食はカロリーが高く、朝には良いが、矢張り日本人である、洋食よりも和食の方が食べたい時がある。
 そうして数十分の調理の後に、扉からシャワー上がりのヒナギクが現れた。先程とは違う色の、ジャージを着ており、テーブルに着いてハヤテの作る朝食を待っている。
 完成した朝食をヒナギクの前に運んで行くと、ありがとう、と礼を言いそれを食べ始める。……すると、リビングの扉が開き、そこよりヒナギクの義母が現れた。食事の香りに誘われたのか、それとも空腹で起きたのか解らないが、私服姿の義母は、朝の挨拶を交わし、テーブルに着き朝食を食べる。
 それを眺めて、ハヤテも自らも朝食を摂ろうと思い、自らの茶碗に飯を盛り始める。
「そういえばヒナちゃん、今日から部活、また始まるのよね」
 と、そこで義母がその様な事を口にした。テーブルに着いたハヤテは、ヒナギクが白皇学院に所属しており、剣道部に居る事を思い出す。……同時に、生徒会の会長だと云う事も思い出す。その様な事を聞いたのはつい最近で、白皇学院の生徒会長だと聞いた時は驚いた。
 ――白皇学院といえば、あの巨大な時計塔で有名であり、ハヤテ自身もあの時計塔には一度登って景色を眺めてみたいとは思っていた。しかし、随分と部活が始まるのが早い。まだ五日である、二日前まではまだ正月だった筈である。
「まぁ白皇は文武両道をモットーにしているから……部活にも、勉強にも力を入れているのよ。……でもお金持ちの子が多くて、基本的に体力とか無いから、休みの日とか多いんだけどね」
 その何処のあたりに文武両道を求めているのか理解出来なかったが、部活に入部している人間が日々努力をしているとは解った。成る程、流石は白皇学院である。その辺りは徹底しているようである。
 高校に入っても、学校の授業料すらまともに支援してもらえなかったハヤテにとって部活は無縁のものであったが、いざ学校を辞めて他の人間が学校にて部活に入っていると、羨ましいものもある。ハヤテ自身も、部活に入部し、友人達と共に同じ目標を持って日々練習をしたり、感動を分かち合ったりしたかった。今となっては叶わぬ夢であるが。
「部活となりますと、お弁当が必要ですか?」
 となると、今こうしている時点で既に手遅れであるが、聞いて見る。
「ううん、午前中で終わる部活だから、今日は良いわ。でも午後まで部活がある時はお願いね」
「はい」
 その言葉に安心半分である。此処で弁当が必要といわれたら、要らない所で金を使う事になっていた。コンビニエンスストアで売っている弁当は、見た目と違い栄養面が乏しい。矢張り手作りの弁当を持って行くことが、経済、そして栄養的にも宜しいのである。
 そんな事を考えながら再びハヤテは箸を伸ばす。余り早く食べるのは問題だが、ゆっくり過ぎる事も問題である。これから片付けに掃除、様々な家事が待っているのである。
「……そうだ、ハヤテ君も見に来る? 私の部活」
 ヒナギクからの突然の提案に、ハヤテの箸が止まり、え? と声を返す。……今ヒナギクは、自らが部活をやっている所を見に来ないか、と問うたのであったか? ハヤテは頭の中でヒナギクが言った言葉をリピートし直す。
「そうよ。ハヤテ君がこの家に来てから当分たったけど、家事とか、全部ハヤテ君がやっているんだから、偶には御義母さんにやらせた方がいいのよ」
 視線は義母の方に向けられる。えー、と少し不満の声を上げる義母であったが、確かに、と呟きながら此処最近の自らの家事状況を思い出しているのであろう。そうして、辿り着いた結果が悲惨な結果である。肩を落としながら、はーい、と声を上げた。
 それに対してでも、とハヤテは反論をしようとしたが、ヒナギクに結局言い負かされてしまい、今日の一日を休みとする事にした。

 ……練馬の商店街を抜け、少し外れに行った所に、その巨大建造物は存在する。
 名前を『白皇学院』。一流の資産家の子供、更には様々な有能な人物が進むといわれる名門校である。卒業生の中には、超有名著名人、有名学者、等々様々な人物が居る。その様な人材を毎年の様に放出するその学校は、多くの資産化の資金によって成り立っている。
 国の支援を受けず、この巨大な敷地を保っているとは、その資金を狙って来る政治家も少なくない。その為にこの学院に子供を入学させる、と云う事も少なくは無い。生徒会に子供が入れば、いずれ、何かしらの功績を残し、そして上手く行けば銀時計、更に行けば別の資産家との“借り”により何時か役に立つと云う魂胆である。
 そんな強大な敷地、権力、資金を誇っている白皇学院に今、ハヤテは踏み入れていた。最初は、校門に存在していたガードマンらしき人間に捕まるところであったが、ヒナギクの弁解により何とか難なく通り抜けた。
 ……しかし……敷地を見渡すと、至る所にレールが敷かれており、電車らしき物体が行き来している。その様な物がなければ行けない程広大な敷地と云う訳である。只今回はヒナギクの部活見学だけである、剣道部の部室がある場所は電車を使う程遠くは無いらしい。
 時計塔を眺め、そして横切って人気のない場所を通ると、そこには木造建築の、剣道部と書かれた部室が現れた。成る程、此処が剣道部の部室である。
「ハヤテ君は一応私の知り合いって事で見学を特別に許可してるから、あんまりうろつかないでね」
「あ、はい。有り難う御座います」
 だが当のハヤテは、この白皇学院に自分が居ると云う事実に感動し、全くヒナギクの言葉が耳に入っていない状態であった。大丈夫であろうか……ヒナギクは髪を掻き上げる。
 心配しても始まらない。如何しようもない事もある。そんな事を思考したくはなかったが、今は別段気にする事でもない、ヒナギクは剣道部の部室の扉を開けた。
 ――中は静かだった。人は一人も居らず、奥に剣道部と書かれた木の立て掛けがあるだけである。部員と思われる人物は居なかった。
「まだ誰も来ていないのね、本当はもう少し部員居るのよ?」
 そう言ってヒナギクは奥の部屋へと入って行った。その部屋の看板には「女子更衣室」と書いてあり、中でヒナギクが着替えているのであろう、ハヤテは邪魔しない様に……いや、その様な場面に居ることすらハヤテにとってはアレな為に、一旦部室を出る事にした。
 横にスライドする扉に手を掛けて、開こうとする。
 と、そこで別の何者かがその扉を開けた。
「……」
 そこには、自分と同じくらいの身長、そしてハヤテが言えた義理では無いが、かなり冴えない顔をしている少年が立っていた。背中に何か棒の様なモノを持っていることから、恐らく剣道部員なのであろう。
「お前、誰だよ!」
「いえ、あの……えーと……」
「何故此処に居る!? 私服だし、執事服も着ていないと云う事は……部外者だな!」
 突然その様な言葉を浴びさせられ、ハヤテは一歩後ろに下がる。確かに部外者と言ったらそこまでであり、事実でもあるが、あからさまに此処まで罵倒されるなどとは思っては居なかった。……現代において、不審者を見つけたら騒ぐのは常識の様に思えるが……
「ハヤテ君っ!? どうしたの!?」
 と、後ろから更衣室を開けて、着替えている途中だろうか、下は長い剣道着を着ているが、上の方はタオル一枚で隠している状態のヒナギクが現れた。
 ……暫らくの沈黙が流れた後に、ハヤテの目の前に居る少年が震え始め、そしてヒナギクが更衣室に戻った。ハヤテは少年に胸座をつかまれ、凄まじい殺気を込めた視線で睨まれる。
「お前……桂さんとどう云う関係だ!」
 そう問い始めた。
 言葉に困るハヤテに、急いで剣道着に着替えたヒナギクが現れ、ハヤテと少年を引き離した。
「はい! 東宮君も! ハヤテ君も! そこまで!」
「あの、僕が何かしましたか? ヒナギクさん」
 ハヤテのその返しに、その東宮と呼ばれた少年が目を見開く。
「……お、お前、桂さんを……呼び捨てに、だと? ……僕達だって許されていないその言葉を……キサマは軽々と……ッ!」
 何を考えているかはわからなかったが、確実に殺意を持ってハヤテを見ている事は解る。それに対して、ヒナギクは髪を掻き上げるだけである。つまりこれは日常茶飯事に行なわれる事柄なのか、それとも日常茶飯事までは行かなくとも、一度は起こったことなのか。
 東宮がハヤテに向かって、背中に持っている竹刀を突きつける。
「……ハヤ太とか言ったな……?」
「あ、いえ、ハヤテです」
「どっちでも良い、僕は今此処で、キサマに決闘を申し込む――ッ!」
 ……その突然の事柄に、ハヤテとヒナギクは只、呆れるしかなかった。



          to be continued......


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無題
なかなか面白いですね、一気に読んでしまいました。
そして今回は東宮君の登場ですか、まあ剣道部見学の時点で大体予想できますが。
そしてハヤテにボロ負けして野々原に泣きつき、さらに野々原にボコられるんでしょうね。
ABBA右右右左 2009/08/13(Thu)21:48:06 編集
返信
コメント有り難う御座います。

まぁ、剣道部の話といったら東宮くんの登場ですからね(笑)。話の続きは余り言うとあれですけど、まぁ大方想像通りですので。

面白いと言って頂きありがたいです。
その「なかなか」が「凄く」に変わるように頑張ります。

それでは、また。
絶対自由 2009/08/13(Thu)22:31:34 編集
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