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貴女をお守りします。ずっと、傍で……
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凌駕する存在を凌駕する。
更に、更に先へ――



これは、ハヤテが歩んだもう一つの『IF』の物語。









 不審者を発見、そして拘束。
 その知らせを受けて、態々赴く事になったのはつい先の話である。当直室で寝ている所を叩き起こされ、桂雪路は頭を掻きながら、面倒臭いと思いながらも、服を着込み、当直室を出た。――この部屋、当直室と言いながら、実際の当直室は本館の上、生徒会室の近くに存在している――しかも、当直などしている人間など居らず、実質、旧当直室に居候している雪路が永遠の当直と云う事になっている。
 今日は既に学校が終わった日であり、部活の顧問が存在しているだけである。皆、部活の練習が優先と云う事もあり、雪路がその不審者と対面する事になった。
 全く面倒だ、一体何処の誰であろうか、この学院に不法侵入をしようなどと云う無駄で、莫迦らしい考えをする人物は……と、歩いて行くに連れて、その人間と対面する事を、少しは楽しみになって来た。それでも、面倒な事に変わりは無いのであるが……そう考えなければ、逆にやっていられなかったと云うのが本音である。
 ――白皇学院にて、不審者を取り締まる場所は、敷地の端に存在している、SP達の為だけに建てられている校舎である。一階に事務所が存在しており、留置所の様な施設、加えて、二階以降はそのSPの為の住まいも作られている。教師よりも優遇されているとしか思えない、と雪路は思っていた。この学院で学生に勉学を教えているのはSPではなく、教師なのである、この学校は教師に対する配慮が少し欠落している様な気がする。……元々、厄介事を起こさない教師なら雇う、と云う荒んだ状況である。
 そんな学院に対する不評、不満を並べ、漸くその建造物に辿り着いた。SP達に教師の顔はほぼ知れ渡っている。雪路に関しては、色々と問題を起こす、と認識されているのである、雪路はそれに対して少し眉を潜めながらも、兎に角今はその捕まった人間を見る事にする。
 留置所には、SPが二人入り口に存在しており、その二人が扉を開けると、椅子に座らせられている一人の少年が居る。向こう側はマジックミラーであり、此方側から見えても、向こう側から此方側を見る事は出来ない。
 そして、少年の姿を見るなり、雪路は目を点にする。
「――って、あやさ……なんだっけ? と、兎に角、あの子は私の妹の知り合いよ」
「は、はい? 桂ヒナギクお嬢様のご友人……でしたかっ?」
 一方のSPの方も驚いている様である。まさかこの様な冴えない――実力は中々のものであったが――少年が、あの才色兼備、成績優秀、完璧超人である生徒会長・桂ヒナギクの友人だとは思わなかったのである。
 世間は狭い、と云うが……いや、この場では関係がない事である。雪路はSPに指示を出して、ハヤテを留置場から出す事にする。

 突然、SPから出ろ、と云う言葉を投げ掛けられ、ハヤテは安堵の溜息を吐いて、立ち上がった。
 先ず、留置所から出るとSPの敬礼が帰って来た。
「――か、桂ヒナギクお嬢様のご友人とも知らずに……数々のご無礼、申し訳ありませんでしたっ!」
 ……そしてこれである。はぁ、と頭を掻きながら外に出ると、そこには何時ぞやのヒナギクの実の姉である、雪路が腰に手を当てて立っていた。今までどこに居たのか……いや、新年を迎えた時にはお年玉やらなんやらで戻って来ていたと云う記憶がある。自分が渡す訳ではなく、貰う役割として。
 状況から見ると、今回はこの雪路に救われた様である。――確かに、この場に来る教師が雪路でなければ、確実に不審者として処理されていたであろう。
 SP達に見守られながら、ハヤテと雪路は建物を後にした。
「……えーと、有り難う御座います」
「ま、知らない人間じゃないわけだからねー……で、それよりー」
 横から、雪路が手を出してくる。
「お礼は?」
「……」
 ――前言撤回である、この女性は矢張りその様な人間である。危うく騙される所であった、ハヤテは反省をする。
「そんな物はありません」
「ええーっ! 折角助けてあげたのにーィ! 義母さんからお小遣い貰ってるんじゃないのぉー!?」
「貰ってませんよ。只でさえ、学校にも通わず、且つ、毎日三食、住む所も提供してもらっている居候なんですから。逆に僕が納めなきゃいけないんですよ」
 その言葉にえー、とまだ不評があるのか、それとも期待はずれと云う事で気を落としているのか。どちらにしろ、ハヤテにとっては余り宜しい言葉ではない。この女性、欲の塊である、金の為なら悪魔に魂すら売り渡すのではないのだろうか、とハヤテは少し心配になった。
 今日だけは、今日だけ、いや、今この瞬間だけに感謝しつつ、ハヤテは右手に持った弁当を、一刻も早くヒナギクに届けなければならないと云う使命を思い出す。……思った以上に時間を消費し、既に時刻は一時半を回っている。昼休みは終わっているであろうが、少しは食べておかなければ力は出ないであろう。
「剣道場は本館から横切ってあそこだから……ああ、こっちよ。もう良いわ、こうなったらヒナにお礼を代わりに貰うんだから!」
 野望高らかに宣言する雪路。勝手にしてくれ、とは言えなかったが、それに素直に応じるヒナギクでは無いと云う事は理解していた為に何も言わなかった。
 ――そうして数分して、漸くその部活の活動場所が集中する場所に辿り着いたハヤテは、そこに、向こう側から歩いてくる人影に気付く。
 あ、と小さく声を上げる。……その姿は、ヒナギクそのものであった。
「ヒナギクさんっ!」
 手を上げると、向こう側も気がついたようであり、同じく手を上げている。
「すみません! 途中で気付いて急いで来たんですけど……えーと、不審者扱いされてしまいまして……!」
 ハヤテの弁解に、それはそうよ、とヒナギクが言葉を投げる。
「その事を失念してたわ、本当に。ハヤテ君がお弁当を絶対に届けてくれるって思ってたけど、ハヤテ君、この学校の生徒でもなければ保護者でもないから捕まるって……気付いていればよかったわ」
 それ以前に、今の学び舎の大半は全て、学校での犯罪防止の為に警官が配備されて居るモノである。それはどの高校でも同じ事である。中には、金銭の都合上、配備していない学校もあるが……
「そ、それより! ヒナギクさん、部活!」
「解ってるわ。でも、お腹空いてるし、本当は良くないけど、部室に行くまでの間に食べる事にするわ。ハヤテ君も来る?」
 ――家での出来事を思い出す。洗濯物もやった……筈である。つまり他にやるべき事は無い。此処はそうする事にする。別段、このまま家に戻ってもやるべき事は無いのである。
 そうする事にし、ヒナギクの後ろを着いていくハヤテ。他愛の無い会話の中で、後ろから更に着いて来る雪路の方に視線が途中で行く。
「……お姉ちゃん、何時まで一緒に居るの?」
「ええっ! ヒドイ! 何、おねーちゃん邪魔!?」
「仕事あるんじゃないの? これから年明けなんだから、授業日程とか……」
「そんなの面倒だし、適当に……」
 そう言ってその場を誤魔化そうと雪路はしているのであろう。
「……それよりヒナー、私、この子を助けたんだからさぁ、何かご褒美――」
 言葉を遮って、ヒナギクの凄まじい程の殺気がこの場に立ち込める。その濃度と言えば、ハヤテが目を細めて、後ろに下がる程である、とても、この殺気の中を、ヒナギクと会話出来る程ではなかった。
「おねーちゃんッ! それでも教師ッ!? 良いから早く行きなさァい!!」
「は、ハイィ!」
 敬礼を一つして、雪路は何処へかと行ってしまった。……どちらが姉で、どちらが妹か、本当に目を疑う様な光景である。一応、雪路の方が姉なのである。
「あれでも昔は……」
 一体何があって彼女をあそこまで金の亡者にしたのか……絶対に、借金とか、その様な問題ではないだろう、とハヤテは密かに思うのであった。
 ……雪路が居なくなり、溜息を吐いて、ヒナギクはハヤテより受け取った弁当の包装を開き、中身を眺める。
「あー」
 そう、ハヤテは此処まで来るのに、SPを追い抜き、謎の執事に一撃を受け、取調べを受け……様々な事柄を弁当を持ちながらやってのけたのである。――当然、弁当には相当の遠心力が掛かっていた訳であり、中身は当然滅茶苦茶になっていた。
「す、すみません……」
 謝るハヤテを横目に、ヒナギクは卵焼きを一つ摘み、口に運ぶ。
「――うん、美味しいわよ、ハヤテ君」


          ×          ×


 ……男は、自らの主を車に乗せると、用事があると良い、残りの護衛をSPに任せた。
 確かめなければならないのである、あの少年の正体と、そして如何程の力を誇っているのか。それは、主を守るに値するものなのか……そして、彼は一体誰の執事なのか……
 ――矢張り、気になってしまったのである、気のせいとは……考えれば考えるほど、否定的になってしまった。あの生徒会長の表情の微妙な変化。それを確かめることにする。成功すれば、その力を試す――喩えそれが違っていたとしても、主でもないモノを何故守れるのか、他人の為に何故そこまで出来るのかを、問う事が出来るのである。
 再び白皇学院の敷地を踏み、青年は、腕を一回振るうと、何時もの様に、ポケットに手を突っ込み、歩を進める。その先を、右に曲がり、敷地内に存在している植木を越え、近道をし、先程の……生徒会長が向かったであろう、進路を取る。
 この先には、確か留置所と、SP専用の建物があったな、と青年は呟く。成る程、益々、あの二人には何かがあると考えるのが自然である。――喩え、生徒会長とぶつかったとしても、問題なのはあの少年の方なのである、恐れる事は何一つ無い。それに、青年自身が生徒会長を恐れたことなど、この白皇学院に入学して以降、一度も無い。……只、青年にとって怖いのは、給料を減額される事である、それ以外なら余り怖いものは無い。
 乾いた音を響かせて、ローファーと地面がぶつかり合う。静寂中で、一人の人影が此方側に向かって来る。一瞬、あの少年かと思って身構えたが、通り過ぎて行ったのは、歴史学の教師である女教師であった。……青年は彼女の授業を受けた事が無かった為に、名前はうろ覚えだったが、あの生徒会長の姉だと云う事は知っていた。変人として有名である。
 つまり……向こう側には、あの少年と、生徒会長が存在していると云う訳か……微笑しながら、青年は脚どりを速める。

 ――そして、二つの影を捕捉した……――

 ……歩いていた二人は、突然目の前に現れた青年に驚いたが、何より、ハヤテに関しては先程の経験から、この青年が凄まじい力を持っている人間だと知っていたのである。
「やぁ、先方ぶりだね」
 呑気に手を上げる青年。ハヤテは目を細める。――一体、何の用事があって再び自らの目の前に現れたのか、ハヤテには理解出来なかったのである。
「いやなに……キミの実力と、その考えを――図りに来ただけだよ」
 薔薇の花弁が、その場に散る。
 ――冴木氷室は、今、一歩手前に出た……


                    to be continued......

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