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貴女をお守りします。ずっと、傍で……
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これはハヤテの歩んだもう一つの『IF』の物語――の、執事編。












 
「お前は誰の執事なんだ?」
「――へ?」
 校内に設置されている自動販売機に百円硬貨を投入して、コーヒーを取り出すと、虎鉄はその様な事を口にした。
 ……誰の執事、と言われた所で、ハヤテには答え様が無い。今ハヤテは、明日この学院で開催される執事VS執事 NEXT PLUSにヒナギクが参加する為に一時的に執事の振りをしているのであり、実際誰の執事と言われた所で、誰の執事でもないのである。
 だが一応、そう思わせる為には、此処では桂ヒナギクの執事と言った方が良いのであろう。ハヤテはえーと、と暫らく有耶無耶にした後に、言葉を発する。
「桂ヒナギクお嬢様の執事をやらせて頂いております……はい」
 ふぅん、とコーヒーの缶を、音を立てながら凹ませてハヤテの身なりを眺め始める。苦し紛れに、ハヤテは同じく自動販売機で買ったコーヒーを口にする。……苦味に混じっての仄かな甘味を楽しむ余裕も無く、只背中には嫌な汗が流れている。
 まさか、嘘を吐いたと気付かれたのではないのだろうか――虎鉄の鋭い目付きを見ていると、嫌でもそう思ってしまう。先日のあの冴木氷室も、野々原楓も、どこか食えない雰囲気を出している執事ではあったが、この虎鉄と云う人物もまた、一般人とは違った雰囲気を出していた。
 一体、自らが知っている一般人認識の執事と、実際の執事はどれ程違うのであろうか……? 今まで出会った執事は、皆若い上に、凄まじい戦闘能力を持っている。執事とは、主の身の回りの世話をすると云う考えが一般論なのであるが……
「そりゃ偏見だな。
 ――良いか? 執事は確かに、主の身の回りの世話をする。だが実質は、貴族の家系の長男にしかなる事の許されなかった由緒正しい職業だ。
 故に、主の盾にもなり、矛にもなる働きをする。それが本物の執事だ」
 そう言われた時に、ふと、数十年前の記憶が一瞬だけ蘇った。
『――執事は、只主の身の回りの世話をすれば良いってモノではないのよ。
 ハヤテ。アナタは強くなって、私を守る盾であり、剣でもありなさい――』
 ……彼女の言葉は正しかった様である。執事とは、一般論にある代物ではなく、実際はもっと、様々な意味と位置を持つ存在だったと云う事である。
 缶コーヒーを一気に呷る虎鉄は、空になった空き缶を、手で放り投げて――刹那、その長い足で蹴る。
 鈍い音が響いて、空き缶捨ての箱の中に一直線に直撃して、中に入った。
「……ま、ざっとこんなもんだ。どうだ? お前に出来るか?」
「あー……いや、無理ですねぇ……。手でなら」
「そりゃ多少コントロールがあれば誰でも出来る」
 尤もな話である。その証明とばかりに、手に乗せた空き缶を、ハヤテはワンアクションで投げて、ゴミ箱の中へと投下する。
 そうして無言で互いの顔を眺めた後、微笑する。
「――ま、そんなもんだよな」
「ええ。まだ執事になって日が浅いですから。……虎鉄さんは執事になってからどれ程経っているんですか?」
 問い掛けると、そうだなぁ、と顎を擦りながら考えている。まだ若い為に、そこまで長い間執事だったと云う事は無いと思っているが……。考えに考えた末に、虎鉄は頷いてその言葉を放った。
「――彼此十年以上は使えているな」
 その言葉に、額に手を当てて、考える。
「えーと……虎鉄さん、今幾つですか?」
「十六」
「僕と同い年じゃないですか! 随分と瀬川さんに仕えているんですね……」
 まぁな、と虎鉄は頭を掻きながら答える。
「どーせ、妹だしな……」
 その言葉に、え、と小さく、且つ目を点にしてハヤテは呟いた。
 ――今、この人物は、瀬川泉を妹と言ったか……? いやまさかその様な事は……
「事実だよ。オレの名前は瀬川虎鉄だしな」
「え、ええーッ! せ、瀬川さんのお兄さんですかっ!?」
 悪いかよ、と云う言葉。いやまさか、本当にあの泉の兄だとは思っても見なかった。性別が違うとは言え、全く雰囲気は違う上に似ていない。それだけで、この主従関係は確実に他人のモノだと思ってしまうであろう。
 加えて、執事とは身内がやるべきものではないと思っていたのである。しかも妹と云う自らよりも年下の身内に仕えるとはどの様な気持ちなのであろうか? 全く想像が付かなかった。
「変わんないね、別に他人だろうが、身内だろうが……。結局は、その人間を如何に大切に思い、守って行く覚悟があるかどうかだ。血の繋がりなんざ、二の次だ」
 その言葉は確かな事柄で、そして不思議と、ハヤテの心の中に染み込んで来る様な、優しい言葉であった。同い年でありながらも、余りにもこの人物と自らの精神の感覚は、違い過ぎていると痛感させられる。
 恐らく、幼い頃からこの男は将来有能な執事になる事を期待されて英才教育を施されて来たのであろう。執事としての行き方、あり方――その全てを幼き日に叩き込まれ、身も心も、執事と云う一点にのみ特化した体へと、成長して行ったに違いない。
 そうして鋼の如く鍛え上げられた主への忠誠心と、体は、主を守る為の盾となり、剣となり、一生を賭けて主をサポートするのである。そこに、兄妹などの感情は存在していない、只主の為に――それだけである。
 しかし、幼き日より、執事になる事を決定され、それだけの為に教育されている人生を……一体どの様に思うのか……
 それに対しては、虎鉄も答えなかった。それに対する答えが無かったのであろう。無言で、明後日の方向を眺めているだけであり、眉一つ動かさなかった。
 時だけが過ぎて、時刻はそろそろ、美希と理沙を教室に送り届けてから二十分ほどが経過しようとしていた。よくも此処まで長い間、虎鉄と話していたものである。時間の流れが全く理解出来なかった。
 二人はその場を離れて、先程まで居た学院の後者の所まで歩いて行く事にした。
 
 
「……で?」
「えーと…………は、ハヤテ君、何とか言ってくれ!」
「僕は知りません」
「そんな! 約束が違うじゃないか!」
「僕は約束なんてしてません!」
 今この場所で、ヒナギクによる、美希と理沙の尋問が行なわれていた。先程、教室に戻る前にハヤテに言われた事柄は一つ、「一緒に来てくれ」だけである。それ以上の行為は望まれていない。故に、この様に文句を言われる筋合いは無いのである。
 だからこそ加担はせず、と言ってヒナギクにも加担はせずの中立の立場を貫いているのである。
 先程叱責を受けていた泉は、今回は何も言われず、只最後まで抗おうとしていた美希と理沙に関してのみ、現在叱責しているのである。
 ……この説教の時間は一体どれ程続くのであろうか? 幾ら昼休みとは言え、昼食も食べずに丸々全ての時間をこの説教で終わらせると云う事は無いであろう……いや、待て、生真面目なヒナギクなら有り得る話ではある。
 自動販売機で買った紅茶と弁当を持って待っているハヤテにとっては、一刻も早くこの説教を終わらせて、昼食にしたいのであるが、どちらにも加担しないと決めた以上、割って入る事も出来ず、こうして後ろから見る作業を続ける。
 その内、後ろから肩を叩かれて振り返ると、不思議な顔をした東宮康太郎がそこに立っていた。
「なんだい……これ」
「説教です。……彼此、もう十五分ほど続いています」
 うわ、と一歩後ろに下がってリアクションする康太郎を見て、更に溜息を吐く。良くも、此処まで説教に使う言葉のボキャブラリーがあるモノである。流石は、完璧超人桂ヒナギクと言った所と感心すべきか、呆れるべきか。
 本当に昼休みが終わるのでは無いのだろうか? そう考えた為に、説教している人間と説教されている人間を放っておき、一歩後ろ側に存在しているベンチに、ハヤテ、康太郎、泉、虎鉄の四人は座り、其々昼食を摂る事にした。このまま待っていても限が無い為である。
 目の前で説教を続ける少女を背景にして、四人は其々の弁当箱を開けて、食事を摂る。ハヤテは自分で作った弁当を、康太郎は楓が作った弁当を、泉と虎鉄は其々買ったモノを食べている。
 そうとも知らずに、目の前ではまだ説教が続いている。昼食も忘れて説教をする姿を見て、本当にそろそろ許してやっても良いのではないのだろうか、と云う念が胸に込み上げて来る。
 ――しかし、その時に話が意外な方向に向かう事になる。どうやら、美希も説教から抜け出したいと思ったのであろう。
「あー、ひ、ヒナ? そういえば明日の執事VS執事に出るんだって……っ?」
 随分と無理矢理な転換であるが、意外にも、ヒナギクはその転換に乗った。
「そうだけど……何、貴女も出る気なの?」
「いや、出ない。それより、執事はやっぱり……アレ?」
 と、言うと、後ろにて昼食を口の中に入れている少年を指差す。それに気付いたハヤテは、僕ですか? と言った様な顔をして、自らに指を差す。
「アレって……ハヤテ君を物みたいに言わないでよ」
 その『ハヤテ君』と云う呼び方に、美希の目尻が微妙に上に上がる事に、ハヤテは気付いた。何か、問題のある事柄でもしたであろうか。いや、寧ろ今の呼び方をしたのはヒナギクの方であり、決して自分ではない。
「――で、訊くの忘れてたけど、どうして突然執事なんて雇ったわけ?」
 急に立場が逆になった様に、質問を繰り返す。
「……良いでしょ、別に。周りの世話係がいれば……楽だし」
 ふぅん、と言いながらも、納得していない様な表情で美希はハヤテをもう一度見た後、用があると言って、泉と理沙を連れて、早足に、逃げる様に行ってしまった。無論、泉が行くと云う事もあり、虎鉄も弁当箱を抱えたまま走って行った。
 その背中が見えなくなった頃になって、漸く逃げられた事を悟る。
「逃げられた? 私……」
 振り向いて、昼食を一足先に食べているハヤテと康太郎に問い掛けると、二人は同時に頷いて、逃げられた事が確実となった……
 


                    </-to be continued-/>

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