忍者ブログ
貴女をお守りします。ずっと、傍で……
[171]  [170]  [169]  [168]  [167]  [166]  [165]  [164]  [163]  [162]  [161
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。




これはハヤテが歩んだもう一つの『IF』の物語――の、執事編。












 
「ただいま」
「只今戻りました」
 時刻は六時半を回った頃、漸く部活が終わり、帰宅の途に着いたのは既に七時を回った頃合であった。しかし、家には鍵が掛かっており、そこには暗闇の家しか存在していなかったのである。
 部屋の中に入り、リビングに向かうと、テーブルの上にメモ帳が置かれており、そこに急遽仕事が入り出掛ける事になった――との旨が書かれていた。
 部活で疲れているヒナギクに夕食を作らせる訳にもいかず、今日はこれよりハヤテが夕食を作る事になる。冷蔵庫の中に存在しているモノを見ると――加えて現在の時刻を考えるとそこまで手の込んだ物は作れない。
 兎に角、中に入っている鶏肉を、オリーブオイルでグリルして、温野菜を添える事にしよう。フライパンには鶏肉を。最近はクッキングペーパーを使って電子レンジで簡単に温野菜を作る事が出来る為に比較的簡単に仕上げる事が出来る。
 鶏肉の方にも、予め下味を着けておいた為に、後は焼くだけで良いのである。
 簡単な料理だけに、直ぐにでも作り終える事が出来る。テーブルの上に、皿を置いて食事を摂る事になる。飯も丁度炊飯器が音を立てて、炊けた事を告げている。何もかも、ジャストタイミングである。
 入浴している筈のヒナギクを確認して、ハヤテは動き辛い執事服の装飾を解く事にする。スーツに似た感覚のその執事服から私服に変わる為に、一旦家の外を出て、自らの部屋である小さな小屋へと歩いて行く。
 壁に着けられている電源を押すと、音を立てて電灯が何回か点滅して明るくなる。初めてこの小屋に来た時はもう少し電灯の光も明るかったのであるが、しかし、今は寿命が間近なのであろう。もうそろそろ変える必要性がある。
 そんな事を気にしつつも、執事服を脱いで、部屋の壁に一つ打ち込まれている釘の所にあるハンガーを取り、服を掛ける。下着姿のハヤテは、布団の上に置かれている服を取り上げ、身に纏って行く。
 矢張り、この服は動き易い。微笑しながら、ハヤテは部屋を後にした。
 
 テレビを見ながらの夕食で、会話のネタは尽きなかったが、どうにもハヤテにとっては明日の執事VS執事の事に関して頭が一杯だったのである。明日のその戦いで自らが敗北する様な事になれば、ヒナギクは生徒会長の座を追われるのである。
 体は常に鍛えて来たがしかし、それでもあの中に存在している執事達に勝てるかどうか解らないのである。確実に勝てる、と云う保障は無いのである。
 夕食を終えて、風呂に入ると、鏡を見る。そこには不安と重圧で押し潰されそうな自らの顔が存在していた。何時もと変わらない様に見えても、唇の端は少し釣りあがり、強張った頬――明らかに、緊張している。それに加えて、負けたら終わりと云う重圧まで圧し掛かっているのである。今直ぐにでも全てを投げ出して逃げ出したい程である。
 だがそれをする事は出来ない。それは完全に、彼女に対する裏切りである。彼女を裏切る事は、何があってもする事が出来ないのである。
 頬を叩き、気合を入れ直すと、浴槽に深く浸かる。明日、兎に角全力を出す――話はそれからである。
 風呂から上がると、体中の水分をタオルで取って行く。……と、人の気配をその脱衣場の向こう側から感じた。
「ハヤテ君?」
 どうやらヒナギクがそこに居るらしい。はい、と言ってその言葉に応えると、暫らくの間があった後に、言葉が返って来た。
「――明日の話……。別に、負けても大丈夫だから」
「え?」
「だから! 明日のその……執事VS執事の話よ」
 ああ、と言葉を返しながらも、体を拭く作業を続ける。タオルを洗濯機の上にある籠の中に入れて、寝巻きを取り出すと着込む――この寝巻きも、義母が選び買って来た物である。水色の寝巻きである。……当の本人は、まだ帰って来ていないのであろう。
 それは兎も角として、今は扉の向こう側に居る少女の話に耳を傾ける事にする。
「……今回の事は、結構強制的にハヤテ君に出て貰う事になっちゃったし……流石に、それで勝ち負けを問うのはあれかなー、って、今更ながらに思ったんだけど――」
 ……そんな事か。ああ、と呟いて、今、心の中で決意を決めた。
 明日の戦いは負ける訳には行かない。自らのその心理を察して、彼女がその様な事を言って来たのであれば、自らは矢張り、彼女に対しての配慮が足りない、如何し様も無い人間なのであろう。迷惑を掛けてばかりの人間である。
 それでは駄目だ。今は……戦う時だ。
「ヒナギクさん」
 話の途中だと云う事は解っていたが、口を挟んだ。
「――明日は、絶対勝ちましょう。僕達……二人で……」
 その言葉をどう思ったのか、解らない。だが一回だけ、くすり、と声を立てて笑い、そうね、と言葉を返して来た。
 服を着終わって、脱衣場から出ると、背中を向けているヒナギクが存在していた。決意を新たに、明日の戦いには必ず勝つ――そんな気持ちが、今ハヤテの胸の中にあった。
 
          (別/空間)
 
 ――ギリシャの、アテネ。高台に存在している遺産の中には、人知れず、ゴーストが出るとの噂が立っていた。
 金髪の……可愛らしい少女の亡霊が出るのだと云う。皆口を揃えて言う、「神話に登場するアテネの亡霊だ」――と。無論、それを科学的に証明する事は出来ない。それが本当に神の亡霊であるのなら、それはそれで一大事である。
 夜の遺産の前に、一人の男が立っている。大事に、手の平に持っているのは小さな宝石の欠片である。それが集って、一つの大きな宝石だったのであろう、その欠片を、今その男は持っているのである。
 その男の姿を見た人々は、まさか本当にゴーストでも退治に来たのか? 若しくはそのアテネに会いにでも来たのであろうかと鼻で笑ったものである。彼がどの様な目的で此処に来たか、当たり前の様に、皆知らない。
 男の目的は、この場所に存在している少女――確かに、この巷で噂のゴーストと呼ばれる代物に会いに来たのかもしれない。苦笑する。彼女が生きている人間だと知っているのは、一体どれ程の人間なのであろうか? そう考えると更にもう一度、男は苦笑して見せる。
 そんな無駄な事は兎も角として、男は遺産の中に踏み入れる。この場所自体には用は無いのであるが、実際にはこの神殿の向こう側に存在している敷地に用があるのである。
 ――数年前、突然現れたその少女は、莫大なその資金を使ってこのアテネ市の一番高い、この場所の敷地を買った。
 無論、遺産の隣の敷地なのである。その様な事柄は前代未聞であり、政府にまで連絡が行ったほどであり、当時は随分と話題になった。――日本の資産家が、アテネ市の敷地――しかも神殿の隣に存在している敷地を買いたいと言った時には、日本も、そしてギリシャも、相当驚愕に目を見開いた事であろう。
 その後、結局多くの資産を積まれ、何度の交渉を得て、この場所に小規模であるが豪邸を建てる事になったその少女は、連れである執事を連れて、二人だけで生きている。この地で……今も尚、この家に存在しているのであろう。
 神殿の開けた場所から、その豪邸の屋根の部分を見る事が出来る。視認して、ポケットに手を入れたまま、男はローファーと遺跡の地面がぶつかり合う音を響かせながら、歩いて行く。
 頃合としては、五分程であろう。男はその豪邸の入り口に立っていた。花が咲き誇る庭に、遺跡の柱が立ち並んでいるその家は、本当にこれで小さいのか、と首を傾げる程である。
 ロイヤル・ガーデン――彼女はそう言っていた。無論本物ではなく、真似事である。この建物の中は、そのロイヤル・ガーデンと呼ばれる場所を模造して作られているのである。
 扉が独りで開く――入れ、と云う事なのであろう。前の様に、突然横より蹴り付けられる心配も無く、すんなりと中に入る事が出来た。その、庭の真中に存在している一つの豪邸を一回眺めた後、その豪邸の扉を前に押す事で扉は開かれた。
 開かれた空間。その頭上に存在しているのは一つの、巨大な宝石である。この男が手に持っている宝石の欠片は、この宝石から作られたモノである。
 月に照らされて、その影が後ろに落ちる。四方八方より降り注がれる月の光は、一体どの様な原理でなっているのか……そんな疑問もあったが、考えない事にした。その様な事はこの家の持ち主に訊く事が一番手っ取り早い。
 ――と、そうした所で、丁度この開けた空間の中央に存在している巨大な階段の上に、一人の少女の姿が見える事に気付いた。ゴーストのお出ましである。
 無言でその姿を眺める。黒い装飾に身を纏ったその少女の姿は、少し、葬式に行く前の人間の様に見える。しかし、手に持った扇と、そしてその凛とした目付きがそれを否定している。彼女の顔を見ると、葬式と云うよりは、結婚式か、若しくは王女の様な印象を受ける。
 暗闇の中、月の光に照らされて――
 男と少女は、互いにこの場所に居る理由を――理解した。
 
 ――手に翳すのは宝石。
    宝石は無限に。
    無限は、力に。
    力は争いに。
    願いは――
 
 


                    </-to be continued-/>

感想等をお待ちしています。
意見等も遠慮なく。
リンクから本家のほうへ行くか、右にあるWEB拍手から送ってもらえるとありがたいです。
PR
この記事にコメントする
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
この記事へのトラックバック
この記事にトラックバックする:
カレンダー
04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
カウンター
Pixiv
フリーエリア
プロフィール
HN:
絶対自由
性別:
男性
最新TB
最新CM
[10/08 絶対自由]
[10/07 名無し]
[08/18 絶対自由]
[08/17 ABBA右右右左]
[08/13 絶対自由]
バーコード
ブログ内検索
フリーエリア
忍者ブログ [PR]