貴女をお守りします。ずっと、傍で……
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
運命の邂逅は、ずれていない世界でも起こる。
そう、それは恐らく、偶然ではないのであろう。それは恐らく必然。
彼女達の出会いもまた……一つの物語……
これはハヤテが歩んだもう一つの『IF』の物語。
現在、時刻は昼を回ろうとしている。西沢歩の家に行く途中で昼になった為に、近くに存在しているコンビニエンスストアに入り、ハヤテとヒナギクは兎に角昼食を買う事にした。……此処で食べて行く事によって、いざ歩の家に到着したとして、昼食を食べていない、提供されると云う事を避ける為である。
ハヤテに関しては、つい数週間前まで続けていた生活の感覚で、休めの食事でも問題は無かったのであるが、それをヒナギクが許さなかった為に、仕方なく握り飯を買う事になった。――尚、金銭は全てヒナギクが払った。これはハヤテが未だバイト先である喫茶店「どんぐり」から給料を貰っていないからである。
すみません、と謝罪の言葉を発したが、ヒナギクは未だに立腹なのか、言葉を返さずに、一つ、ええ、とだけ言葉を返した。
歩きながら食すと云うのは消化に悪い以前に、マナーとして最低の為に、コンビニエンスストアの近くに存在しているベンチに座り、食べる事にした。
……此処から歩の済んでいるマンションまで、かなり近い位置に存在している。心の準備も出来ないままに、ハヤテは歩と会う事になるのである。この昼食の時間が少しでも延びれば良いと思うのが、常人の性である。
だがそんな事が許される筈も無く、食事を終えた刹那、ヒナギクが立ち上がり直ぐに歩き始める事になる。本当に休みなど無い、食事を終えたら、やるべき事が終わったら直ぐに行くのである。そこにハヤテの意志などは存在していない。完全に、ヒナギクの言うがままにされているのである。逆らったらどうなるか……ハヤテは想像もしたくなかった。
――そうして、遂にその時が来てしまった。歩が住んでいると思われるマンションに辿り着いてしまったのである。そこまで新しいと云う訳でも無く、とは云え罅だらけで古いと云う訳ではない、割と普通にその辺りに存在しているマンションである。……周りを見れば、確かに同じ様なマンションが並んでいる。どうやら密集地帯の様である。
聞いた話では、このマンションの五階に存在する七〇二号室だと言う。エレベーターも無い、普通のマンションで、全五階建て、階段を使って上に上る事になる。
乾いた音を立てて、靴底と、コンクリートの地面が音を立てる。この音が今日ほど五月蝿いと思った事はハヤテには無かった。この先に、どんな地獄と結末が待っているのか……いや、歩の家を地獄と言うのは言い過ぎ、あくまで比喩の表現である。だがこれから話す内容を考えると、矢張り行きたくは無いと云う念が強い。
辿り着いてしまった……七〇二号室。インターフォンを眺めて暫らく静止していたのだが……
「……早く押しなさいよ」
ヒナギクに促される。しかし、まだ心の準備が出来ていないのである。そんな中でインターフォンを押して、歩に会うなどと、相当な緊張とプレッシャーが掛かるのである。心臓が口から出ると云う表現とはこの事であろう。
「でも……えーと、どうしたら良いか……」
「そんな事、後から考えれば良いのよ! 直ぐに答えを出さないなんて、男らしくないわよ!」
そうして、ヒナギクがインターフォンを押した。――直ぐに答えを出さないと言ったが、実際ハヤテは断ると云う答えを出していた訳であるが……その様な事、ヒナギクの記憶には無いのか、それとも必ずOKしろと強要しているのか。
インターフォンを押した後、かなり長く時間が感じた。実際は、三秒も経って居ない内に、扉の向こう側から少女の声が響き、それが歩のものだと確信した。遂にその時が来たのである。
重く、鈍い音を立てて、その玄関の扉が開いた――
「――どちらさ、ま……」
歩はハヤテを見るなり、その口を開けたまま、瞬きを数回する。……ハヤテも、愛想笑いを浮かべたまま、この状況を如何にした物かと、思考を巡らせる。が、両者全く良い行動の仕方も解からず、そのまま見詰め合ったまま止まってしまったのである。
後ろでそれを眺めていたヒナギクは、今日何度目か解らない溜息を吐いて、二人に声を掛けて、我に返らせる。
「ええーっ! ハヤテ君! どうして家が……」
と、聞く前に、そのハヤテの隣に居る少女の姿が目に入った。
――綺麗な肌、髪はしなやかでありこの乾燥した空気の中でも潤いを保っており、そして身長も高い。凛としたその目は、喩え同性でも、虜にしてしまいそうな眼差し……まさに完璧と言っても過言では無いプロポーションを誇っていた。これ以上の完全は無いであろう。
……まさか、と云う念が歩の脳裏を過ぎった。
“……この人、ハヤテ君の……彼女さん!?”
いやまさか……いや、自らが恋愛対象に選んだ人物である、他にも何人か選ぶ人間が居ても不思議ではない。
兎に角、焦らず、確認してみる事にした。
「……あの、貴女は……だれなの、かな?」
恐る恐る、聞いてみる。と、ヒナギクはそのまま視線だけで歩を見ると、直ぐに体制を整えて、歩の方を向いた――仕草まで、完璧である。リラックスしていた体制から、声をかけられて瞬時に体制を整えたのである。意識していても、直ぐには出来ない芸当である――そして、答えた。
「私は、桂ヒナギク。ハヤテ君の……友達よ」
一瞬考えたが、この歩と云う人物はハヤテに対して好意を抱いているのである。ならば、居候している家の人間などと言えば、要らぬ誤解を与えかねない。此処はシンプルに、友人と云う言葉を使った。
「……どこかで聞いた事あるかな……」
と、顎に指を当てて考えている様であったが、ふと思い出したかの様に部屋に戻って行った。その間に、ヒナギクはハヤテを何とかする事にする。
「……ハヤテ君! 何時までそうしているつもりよ……」
耳打ちすると、ハヤテは漸く我に返ったのか、呆然としていた顔を引き締め、はい、と答えた。もぉ、とヒナギクが呆れ、そして直ぐに歩が何やらチラシの様なものを持って戻って来た。――どうやらそのチラシの様な物は、市政便りらしい、この練馬区と呼ばれる区にて如何なることが起こっているかと云うものを、約一ヶ月ペースで家に届くものである。
歩はえーと、と呟きながらその市政便りを開き、目的のものを見つけたらしい。声を上げて、その箇所を指差した。
……と、そこにはヒナギクの顔が写っていた。
「白皇学院の……」
「……ええ、生徒会長よ」
やっぱり、と声を上げる。……成る程、市政便りにも載る。流石は指折りの名門学院の生徒会長である、この様なインタビューも行事ごと、学校が関わる物ごとに受けるのであろう。その辺りは通常の学校とは大違いである。
そんな人物がハヤテと共に来たと云う事もあり、更に歩は質問を重ねる。
「あの……二人は、どこで出会ったのかな?」
……流石にそれをヒナギクは持ち合わせていなかった。普通に道端、と云うのは不自然である。他にも学校で出会ったと云う線も、先程ハヤテのクラスメイトに出会った時、学校を辞めさせられ、何処かに行っていると云う噂が流れている中では信じてもらえないであろう。
だがその点はハヤテがフォローした。
「この前、とある家に居候になっていると言いましたよね。実はその人の家の知り合いの家がヒナギクさんの家でして、正月に出会ってから、剣道の事で熱くなりまして……」
頭を掻きながら説明するのは説得力が無かったが、兎に角、歩は信じているようである。安堵の溜息を吐く。
と、そこで、本来の目的を忘れ掛けている所であった事に気付く。――そう、此処に来たのは、歩に対する答えを云う為に来たのである。その辺りを忘れてはいけなかった。……兎に角、話し合いの場を作るしか無い。
ハヤテの腰を腕で突く。――と、ハヤテが顔色を変えた。
「えーと……西沢さん……大事な話があるんですけど……」
そして、その言葉に同じく歩も顔色を変えた。そう、彼女もまた、この事を、瞬間を恐れていたと言っても過言では無い。色々と考えたのである、あの時、ハヤテに告白したのは正しかったのか、タイミング的に正しかったのか……。確かに、あの時はもう二度と会えないと思っていたからこそ口走ってしまったのかもしれないが、それでも、答えが聞けるかどうかのリスクを考えないで、言ったのはどうかと、その後に思ったものである。
そして今、それが解明される。答えと云う、確かな現実を今耳にしなくてはならないのである。
取り敢えず、この玄関先で話し合うのは問題である、ハヤテとヒナギクを、部屋の中へと招待する。歩自身の部屋にはテーブルと云う物が勉強机意外存在していない為に、台所に存在するテーブルにて話をする事にした。幸い、両親も、弟も出掛けていて、タイミング的には丁度良かった。
心を落ち着かせる為に、歩は普段は淹れない紅茶のリーフを取り出す。……母親が希に買って来るのである、高級な茶と言えば、紅茶と考えるのであろう。薬缶に水道水を注ぎ、コンロに掛ける。
……その間が考え時である。ハヤテも、歩も、どの様な状況になった時、どの様な対応をすべきかを考える。
――ハヤテに関しては如何にして、ヒナギクと、歩の言葉を避けて、理由を述べて断ることが出来るか、である。矢張り歩には申し訳ないが、今現在の自らでは女性と付き合う事は出来ない。その旨を述べなければならない。
一方の歩の方は、もしもの確率で、OKと言われた場合のリアクションと、NOと言われた時にどの様な反応をすれば良いかの考察をしていた。……前者にしろ、後者にしろ、結局は相当悩むのである。精神的に拙いのは後者になりそうであるが……
薬缶の水が湯になるまで、三人分の紅茶が完成するまで、約五分……沸騰した水が、リーフの入ったカップに注がれ、三分蒸らした後、紅茶を其々、三人分のカップに注ぐのである。――そしてその先に、運命の時は待っているのである。明日からの人生を変える出来事が……
OKといわれて未来永劫この少年と過ごすか、NOと言われて青春の一ページになるか、全てはこの瞬間に掛かっているのである。無論それはハヤテにとっても同じ事が言える。
――この心理戦……一体どの様になるのか……
“常に二手、三手先を考えて戦うだよ……と言うけど、そのままだと一手先を考えていないんだよなぁ……”
“と、兎に角! 今は何とか時間を稼がなきゃいけないんじゃないかな!? かな!?”
こうして二人――加えてもう一人、の心理戦が始まる……
to be continued......
感想等をお待ちしています。
意見等も遠慮なく。
リンクから本家のほうへ行くか、右にあるWEB拍手から送ってもらえるとありがたいです。
PR
この記事にコメントする