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貴女をお守りします。ずっと、傍で……
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これはハヤテが歩んだもう一つの『IF』の物語――の、執事編。












 
 
 遂にその時が来た。
 白皇学院理事長と呼ばれている女性の提案によって始まったこの勝負。自らが連れている執事を、そして主の強さを見極め、最強を証明し、頂天に立った人間は――そう、この巨大な学院の生徒会長になる事が出来るのである。
 この学院は、生徒会第一の学院である。つまり生徒会長になると云う事は、事実上白皇学院の方針、そして権力の一部を握る事になるのである。生徒会長は行事を、その他様々な学院の方針を決定、変更する。無論、教師からの承諾も一部必要だが、楽しい事、そして妙な事が好きなこの学院に居る現在の理事長は、殆どの事を了承するであろう。
 それを危惧した現在の生徒会長、桂ヒナギクは、今日、自らの臨時執事の少年を引き連れて、この戦いに挑む事になるのである。
 ――急遽、白皇学院のグラウンドの一部に建設された特製ドームは、その為だけに建設されている代物であり、この学院がその様な下らない事柄にどれ程の資産を費やしているのか、考えるまでも無い。
 中の構造は、東京都内に存在している巨大なドーム球場と殆ど変わらない。選手の控え室、他にもドーム内の露店、そして様々な施設がある。入場にはチケットではなく、生徒証を使う事になっている。つまりこの学院の生徒であるのなら、誰でも入れるのである――例外として、教師や、生徒の執事は入場を許可される事はあるが……
 そもそも、今回このドームで行なわれるのは、執事VS執事、と云う代物なのである。学院に殆どの執事が在籍しているとは言え、入学していない執事も多数存在している。故に執事、若しくはメイドなどの使用人に関しては、今回は不問とされる。
 臨時とは言え、表向きは一応桂家の執事となっているハヤテは、今、ヒナギクと共にドームの中に入る。
「……広いですね……」
 ハヤテが感嘆の溜息を吐くと、ヒナギクは同じた表情も無く、先に進む。それを慌てて追って、二人は共にエントリーをする為に行列に並ぶ事になる。
「まぁ、元々凄い資産家――それこそ、ナギの家よりも凄いかも知れない資産家が理事長だからね。予算は無駄にあるし、人員も無駄に居るから、これくらいは普通よ」
「これが、普通……ですか……」
 一般人であるハヤテにとっては信じられない事柄ではあるが、その資産家と呼ばれる彼らにとっては、そこまで非常識な事ではないのであろう。金が人の感覚をおかしくするとは、恐らく本当の事なのだろうと、少し、身震いする。
 エントリーは比較的早く終わった。多くの受付が設けられており、凄まじいスピードでそれをこなしていたからである。そうなれば、確かに早くも終わるであろう。
 ドームの中央――先程の話で、東京都内に設置されているドームであれば、野球のグラウンドなのであるが――そこには、一つ、四角形のステージが用意されており、その上で恐らく試合を行なうのであろう。
 もう一度、ルールを確認する事にする。
 一つ、相手をフィールドアウトにさせる。
 二つ、相手をノックアウトさせる。
 三つ、ネクタイを取る。
 四つ、主によって撤退を進言された時。
 五つ、主がフィールドアウトした時。
 ――以上の五つがこの執事VS執事においての主なルールである。それ以外には殆どフリーともいえるこの戦いは、間違いなく、激化するであろう。武器に関しても、殺傷能力の高い武器以外は使用を許可されている。
 現在ハヤテが持っている木刀自身、かなり殺傷能力は高い様に見えるのであるが、銃や真剣に比べたら、まだ幾分か大丈夫な方であろう。
 先程、学院の野球部より、木刀に巻き付けるグリップを貰って来た為に、握るべき所は手袋をしていれば、汗で飛ぶ事も無いであろう。これで準備は整ったのである。後は、如何にして強豪の執事達を倒し、そして勝利を掴むか、と云う点にある。
 この学院に多数存在している執事達の実力が凄まじいと云う事は充分承知している。今まで何回かこの学院に来て様々な執事を見て来たが、どれも、人間とは思えない離れ技をやってのける。初めて戦ったあの楓に関しても、同じ事が言える。
 彼らの様な存在を目の前にして、勝つ事が出来るのかどうか……――いや、如何かではない、勝たなくてはならない。拳を作り、息を吸う。何度同じ考えをして、同じ答えに辿り着くのか……自分自身を叱責する。
 さて、と目の前の少女が呟き振り向くと、客席の方へと歩を進める。エントリーした際に渡された用紙によると、どうやら自ら達の出番は二十組目。随分と先の話である。勿論、一つの試合につきどれ程の時間が必要なのかは解らないが、普通に考えれば、瞬殺は有り得ないであろう。一方的な展開になったとしても、五分程持ち堪えると仮定すると――自らの出番が来るのは単純計算百分後の話になる。
 その間この体制でこの場所に何時までも居る訳には行かない。客席に行き、勝ち上がった人間の戦法、他にも癖などを見抜かねばならないのである。
 ……客席は全て自由席である。但し、一番前の、フィールドが一番良く見える場所は教師が監督役として見ている。それ以外の場所であれば、何処でも座って問題無い。
 多くの執事が参加しているこの大会――全てを覚えている事は不可能に近い。
「大丈夫よ。私、覚えているから」
 期待する事にしよう……ハヤテは苦笑しながら笑顔を浮かべているヒナギクの顔を眺めた。
 
 
 
「いや、しかし――」
 乱れた前髪を正し、目の前で体力の限界による呼吸混乱に陥っている主を眺めながら、楓は使っていた竹刀を一振るいして、身なりを整えた。
 一方の、肩で息をし、既に体力の限界を迎えているその主、康太郎は、途中で咳き込み、咽ながらも何とかその場から立ち上がり、椅子に座った。……一つ、溜息を吐いて、落ちた竹刀を取り上げた。
 何故この様な事になったのか。いや、何時もの事だ、何かとつけて、自らの軟弱な体を鍛える為に楓は虐待に近い鍛え上げ方をしている――と、康太郎は被害者ながらに考えている――。今回のこの執事VS執事の出場も、その一環であろう。
 しかし、自らの父親は、過保護――ではないのであろう、どちらかと言えば、その様な状況に陥り、何も出来なくなる自らを按じての事なのであろうが、楓の人選はどうなのであろうか? 優秀と云う点は、誰もが認める。白皇学院の試験にも難なく合格し、現在に至る。もう既に三年生である彼は、後はこの三月で卒業する事になるであろう。
 その時、自分がどうなるのかは解らない。何を考えているのかも解らない。――だが言える事は、その時自らは、楓が居なくなった事に関して悲嘆しているのか、それとも清々しているのか、の二つと云う事である。
 ……後二ヶ月――か。康太郎はタオルで汗を拭きながらそう考える。
「――坊ちゃま?」
「――、」
 どうやら随分長い間考え込んでいた様である。気付けば目の前に楓の姿があった。先程まで少し向こう側で竹刀を構えていたと云うのに……
 問い掛けに手を上げて答えて、立ち上がる。勝ち上がってしまった以上、まだまだこの戦いを続けなければならないと云う事である。嫌な感じだ、直ぐにでも負けてしまおうと云うのが正直な所なのであるが、此処で強い所を見せておかなければ、ヒナギクに対する印象が落ちてしまう。只でさえ、最近はあの少年が居ると云うのだ。
 二回戦は、一回戦が終わる予定である午後から開始される。
 
 
 
 当然の如く、主に何をさせる訳ではなく、只、その場に立っただけである。足で一つ、サークルを作り、そこから一歩も動かずに、相手を倒すと云う言葉――嘘ではなかった。
 相手は動けない事を知っている為に、そのまま主に標的を移したのであるが、その相手に対して、摘んだ薔薇で牽制をし、隙に主を自らの後ろへと移動させる。これで、相手は嫌でも自らと戦わなければならない。
 相手は主と執事、両方で戦いを挑むタイプであった為に、二対一ではあったが、余裕であった。何せ、戦いなど、普通の資産家に仕えている執事などに出来る筈も無いからである。本物の教育と、本物の戦いを知っている氷室にとっては、全くのお遊びである。
 自らの主を率いて、一旦戻る。
 ふと、上を見ると、客席の一つに――偶然にも――この学院の現生徒会長である桂ヒナギクと、その執事が座っていた。生徒会長の座を死守する為にこの大会に参加すると云う――それは数日前に聞いていた。あの少年が、どれ程やるのかも、先日一度戦って解っている。
 直ぐに視線を逸らして、奥の方へと戻って行った。そのすれ違い様に、瀬川家の執事とすれ違う。
「……おやおや、そちらのお嬢様も生徒会長の座が欲しいと見える……」
 この大会に出ている以上、そうなのであろうが、一応である。
「なんだかねー、これで女子人気とか出たら良いんだけどな……」
 その様な事を呟きながら直ぐにでもその背中を会場へと消した。主は――
「待ってよー、虎鉄くーんっ」
 その後から急ぎ足で、会場へと走って行った。それを背中越しに眺めた後、今度こそ、完全に奥へと歩いて行く。
 
 
          ×          ×
 
 
「やっぱり皆さん凄いですね……」
 ハヤテのその感想に、そうね、とヒナギクは応える。――見慣れているからこそのこの何も感情の無い言葉なのか、それとも、必ず勝たなければならないと云う意志の表れなのか……昨日、負けても良いと言っていたヒナギクの言葉が、漸く理解出来た。
 中には通常の執事も多数存在している。だが、矢張り多くが主を守る為に鍛錬に鍛錬を重ねて、完成された肉体と、そして勘を持っている人物達なのである。
 この中を勝ち抜く事は容易ではない。ましてや優勝など、本当に出来るのかどうか、不安になって来る。
「大丈夫よ。だって、私も居るもの」
 笑顔でそう返されると、頷かざるを得ない。
 ――目の前では、今、泉が逃げ回り、そして虎鉄が正面衝突をしていると云う光景が繰り広げられている。この後、直ぐにでも自ら達の出番なのである。そろそろ、立ち上がろう。
「……じゃ、ハヤテ君」
「ええ。勝ちましょう」
 色々と不安はあるが、今は目の前の壁を打破する事が第一である。
 
 


                    </-to be continued-/>

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