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貴女をお守りします。ずっと、傍で……
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これはハヤテが歩んだもう一つの『IF』の物語――の、執事編。












 
 
「へぇ、花菱美希さんと朝風理沙さんですかぁ……」
 先程片付けたティーセットをもう一度取り出して、紅茶を淹れる。自己紹介で知ったこの二人の少女の手前に、淹れ終った紅茶を置く。――と、二人はふむ、と肯きながらその紅茶を口に運ぶ。
「おお、上手いじゃないか、ハヤテ君」
 その内の、理沙が開口一番、世辞の言葉を投げ掛けた。その表情から、冗談ではなく本当にその様に思っているのであろうと察する事が出来る。隣に居る美希の方も同じ考えなのであろう、何回か肯いて、その旨をハヤテに伝える。
 有り難う御座います、と礼をして、淹れ終えた紅茶のカップに、次の紅茶を準備する。……まさかこの様な事になるとは思っても見なかったが、別段、周りをうろついて不審者扱いされるよりは問題ないであろう。
 只、折角ヒナギクがSP達に言って不審者扱いされない様に手を回してくれた事柄が損になってしまったが……。そもそも、不審者扱いされないのはSPだけの話であり、他の生徒から見れば、充分な不審者である。幾ら執事服を着ていたとしてもの話である。
 そういえば、と思い、先程の菓子を入れる入れ物を取り出すと、ハヤテの記憶は間違えておらず、まだ少しの菓子が残っている事に気付く。
 これを出しても問題は無いであろう。ハヤテはそれを持って二人の目の前に出すと、それを食べ始めた。
 ……しかし、そこまで来て漸くハヤテの思考が冷静になって来て考えてみると、この二人、授業は如何しているのであろうか?
 それを問おうとした所で、ポケットに入れていた携帯電話が振動を始める。――一週間ほど前に、ヒナギクに連絡が出来なければ面倒だ、と言われてしまい、無理矢理渡された物である。これ以上の資金と手間を掛けさせる訳には行かなかったのであるが、要らない心配をして捜す方が労力と資金の無駄だと、これはまた言い包められてしまい、こうして所持するに至っているのである。
 失礼します。二人にそう述べてその場所を後にすると、携帯電話の液晶画面を見る。
『桂ヒナギク』
 詠唱画面には、そう掛かれていた。
 腕時計を眺めると、丁度そろそろ休憩時間が終わる頃である。その前に何か用事があるのであろう。急いで通話のボタンを押し、耳に押し当てる。
「もしもし……」
 すると、向こう側から急いだ様子のヒナギクが、小声で言葉を掛けて来た。
『あ、ハヤテ君? 今何処?』
「え……えーと、まだ生徒会室ですけど……。何か?」
『ううん。ちょっと良かったら頼まれてくれる?』
 その頼み事、とは? 今でなければ駄目なのであろうか?
『どちらかと云うと、午前中の内に終わらせておきたいかなぁ……なんて……』
「は、はぁ。それで、その頼み事と云うのは?」
 暫らくの後に、その頼み事の用件が話される。
『――花菱美希と、朝風理沙って云う、私の友達を捜して欲しいんだけど……』
 その言葉に、え? と言葉を返す。そして、後ろを振り向くと、そこには全く同姓同名の少女二人が、何食わぬ顔で、紅茶と、差し出した菓子を口に運んでいる光景が広がっている。……えーと……と間を一旦置き、ハヤテはもう一度訊いて見る事にした。
「……な、何さんと何さん……ですか?」
 向こう側も不審に思ったのか、もう一度だけ、言葉を紡ぐ。
『花菱美希と、朝風理沙だけど……何? どうしたの?』
「えーと……恐らく、その人たち、僕の後ろに居ます」
 ……受話器の向こう側の人物は、静かに、溜息を吐いた。
『……ちょっと……代わってくれる?』
 はい、と言葉を返して、ハヤテは後ろに居る少女二人に、自らの携帯電話を渡す。
 当初こそは、何が何だか解かっていなかった二人であったが、直ぐに、渡された携帯電話の向こう側に居る人物が誰なのかを察した様である。顔色が、徐々に青くなって行く状態を、見逃さなかった。
 直ぐには受話器を耳に着けなかった。唾を飲んで、深呼吸をして――
「り、理沙、お前が出てくれ……」
 その様な結論に辿り着いたらしい。隣に居る理沙は無理、と言って首を振っている。そして仕方なく、美希がそのまま受話器を自らの耳に当てて、もしもし、と声を放った。
 ――二人がどの様な会話をしているかどうかは、ハヤテには理解出来ないが、どうやら凄まじい内容らしい。美希の顔が更に青くなり、後ろでその内容を聞いている理沙も、頭に手を当てて、溜息を吐いている。
 話は、大体一分程度続いた。休み時間も残り短いからであろう、直ぐにその話は終わり、切られた電話を、美希はハヤテに返す。
「……えーと……」
 どう声を掛けて良いのかは解らない。只、同情するべき対象なのか、それとも……
「は、ハヤテ君……助けてくれ」
「初対面の人に良く助けを求められますね……因みに僕には無理です」
「今は形振り構っていられない。君はヒナの知り合いなんだろう? 携帯電話の番号知ってるんだから……」
「まぁそうですけど……」
「だったら助けてくれ……」
 話が見えない。電話の内容を知らないハヤテにとっては、只、目の前の少女二人が意味も解らず助けを求めている様にしか見えないのである。どう対処して良いのか、先程の同情の件と同じであり、行動方法が見えない。
「……だ、だからだね……」
 ……今までの状況を考えて、この少女二人が、授業が始まろうと云うのにこの場所に現れたと云う事が不審点その一である。そして、先程ヒナギクと共に行った筈の瀬川泉は、かくれんぼをしていた、そしてこの場所に隠れていた、と言っていた。
 かくれんぼに参加している人間が何人かは解らない。だが、あの時出会った泉の執事と名乗る、虎鉄と云う人物は少なくともかくれんぼに加担していたと考えるのが自然である。……そして、その後のタイミングで、彼女が隠れていたこの場所に、二人が来た――
 成る程、漸く頭の中でハヤテの思考回路が連結した。
 要するに、この二人は、泉とかくれんぼをしていた人間なのであろう。どちらか鬼かは存じないが、二人で来たと云う事は、片方が見付かってしまい、二人体制で――後に虎鉄が合流して――泉を捜していたのであろう。
 泉の言葉を思い出してみると、そもそも彼女は今日の授業をサボる見込みでかくれんぼをしていたのである。そして、それは同じ事をしていたこの二人も同一。
「成る程、今二人は、ヒナギクさんに叱られそうなんですね。授業をサボろうとしたから」
「察しが早くて助かるよ、ハヤテ君」
 相当だ。サボり癖とは良くある事だ。故にこの人物達は相当の数サボりを重ねているのであろう。それ故の、今回のヒナギクの逆鱗に触れたと云う事なのであろう――妙に、今日のハヤテの思考能力は冴えていた。
 さて、冴えた頭のままで、それに対しての回答を考える。このままこの二人を助けるべきか、それともヒナギクの意見を尊重するべきか……
 何時もの思考であれば、中立を保ち、ヒナギクと、二人の意見を尊重しつつ、フォローを入れると云う選択を取るのであるが、今回は、間違いなく、この二人が悪いと云う事が解り切っているのである。
 その為に、如何したものかを本当に考えているのである。
 しかし、結局決断は、直ぐにでも下った。
「……残念ですけど、今回の件に関しては確実にお二人が悪いと思うので……それじゃあ僕は片付けがあるので……」
「そ、そんな!」
 理沙が後ろで吠えている。しかし――
「頼む! じゃあ着いて来るだけで良いからさっ!」
 着いて行くだけでどうなると云うのか……理解は出来なかったがしかし、服を掴んで離そうとしない。如何したものかを思考するが、この少女は恐らく自らが行くと言わない限りは背中を離してはくれないであろう。
 自分が行くだけでヒナギクの思考が変わるとは思わない。ならばこのまま行っても問題ないだろう。
 生徒会室の時計を見ると、時計は今授業が始まって一〇分を挿している。このまま行った所で直ぐに教室に入るのはこの二人であろう。ならば自らは廊下で待つか、それとも辺りを回り、時間が経った所で戻って来ると云う事にする。
 着いて行く事を了承して、二人に着いて行く事にする。エレベーターの中に入り、パネルを操作して三階へと降りる。三階の端にエレベーターの出入り口は存在している。出ると、そこは静寂に包まれた廊下であり、特殊ガラスによって、外から中の様子を窺う事は出来ない。だが、教室の扉の少しの隙間から、中の様子を見る事が出来る。相当数の生徒が、黒板を目の前にしてノートを取っている。
 ――最近、他の有名高校では、情報化社会を生き抜く為に、コンピュータでノートを取る高校も存在していると聞いた事があったが、どうやらこの白皇学院は違う様である。
 同じ構造の廊下を何分か進んだ所、丁度この廊下の半分辺りに来た所で、ヒナギクが授業を受けているだろう教室に辿り着く。
 しかし、二人はその場所を通り過ぎて、もう少し先にある場所の教室の所で止まった。どうやら、教室はヒナギクとは違うらしい。
「私達は泉と一緒だからな。ヒナとはクラスが違う」
「あ、そうなんですか」
 一応相槌を打っておく。
 暫らくの間があった後で、決意を固めた二人が、後ろ側から、屈みながら教室の中に入って行く事を確認して、ハヤテは溜息を吐く。後また暫らくした後に此処に戻ってこなければならないと云う訳である。それまでのあと三〇分ほど、一体何処で時間を潰すか……
 三〇分と云う短い時間である。そこまで遠くまでこの白皇学院の敷地を眺めて行く訳には行かない。このせめて、この校舎の中での範囲で歩いているしか無いであろう。
 そうして、再び長い廊下を渡って、エレベーターの所まで来たところで、隣に存在している階段を降りて、ハヤテは下の階層へと進んで行く。
「――あ」
「む、お前は……」
 そこで、廊下の壁に背中を預けている男――あの瀬川泉の執事である虎鉄と、再び合い見えた。
 
 
                    </-to be continued-/>
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